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実業家お嬢様と鈍感従者
第8章 意中彼落作戦・五 汝、押して駄目なら引いてみろ!
「ではお食事をしながら、ヘンリーの学生時代の話をお伺いしたいですわ」
にっこり笑った彼女は、マットがそっと出した腕に手を添えてダイニングルームへと移動していった。
ヘンリーは食事の給仕をしながら、二人の様子を窺っていた。
二人はとても打ち解けて見えた。
コロコロと鈴の音のように可愛く笑う彼女と、当たり前のように紳士としてエスコートするマットをみて、とても似合いの二人だと思った。
女王の覚えもめでたい伯爵家の次男で家柄的に見ても申し分ない――ただ、彼の女ぐせが悪い事を除けばだが――。
食後、広間で紅茶を召し上がっていた客人達は、各々帰途へ付き始めた。
見送りに出ていたヘンリーに気付いた二人が、傍に寄ってきた。
「ヘンリー、貴方教授のチョコを食べているのを見つかって、お尻ぶたれたって本当?」
彼女は首元に飾られたチョーカーの宝石の様に瞳をキラキラさせてヘンリーを覗き込むと、楽しそうに言う。
「マット、貴方はまた――!」
アンジェラに自分の昔の悪事を漏らした張本人は、彼女の隣でくっくっと笑っている。
「この人が嵌めたのですよ。ご自分はちゃっかりお逃げになったから、ぶたれませんでしたがね」
ヘンリーが憮然として白状すると、彼女は何故かホッとしたように笑ったが、直ぐに少し困ったような顔になった。
「ヘンリーは素敵な学生時代を過ごしたのね、良かったわ。貴方はあまり学校のことを話してくれなかったから――」
「そうでしたか、では私がじっくり話して差し上げましょう。来週私の母の昼食会があります。招待状はお送りしていると思いますが?」
マットは手馴れた感じで彼女を誘う。
「お嬢様、参加のお返事を差し上げております。マット、これ以上お嬢様に何が吹き込まれたら、貴方のイタズラの数々も話しますからね」
参加の意思をアンジェラの代わりに伝え、ヘンリーはマットに釘を刺すようにじろりと睨んだ。
「おお、怖い。ではレディーアンジェラ、また来週お目にかかれるのを楽しみにしています」
「ごきげんよう、マシュー卿」
大げさに笑った彼は、彼女の掌に軽くキスをすると去っていった。
「彼はとても面白い方ね」
アンジェラが白い歯をこぼす。