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実業家お嬢様と鈍感従者
第8章 意中彼落作戦・五 汝、押して駄目なら引いてみろ!
「ごきげんよう。ロード」
ロックウェル伯爵夫人は苦笑いしながらマットを軽く睨む。
「この子ったら前に誘ったときは断ってきたのに、レディーアンジェラが参加すると知ったら、自分から来ると言って来たのですのよ。現金だわ」
「まあ、光栄ね。アンジェラ」
母もご機嫌な様子でそう返す。
アンジェラも見知らない年の離れたおじ様方にエスコートされるよりは、共通の話題がある彼にエスコートされるのはベターかなと思い、出された肘に手をかける。
ちらと後ろを振り返ると、こちらを伺っていたヘンリーと目が合った。
笑って手を振ろうとしたがマシュー卿が歩き出したのでしょうがなく前を見、広間へと誘う人々の列に従った。
伯爵夫人のセンスが如何なく発揮されたテーブルコーディネートに感心しながら席に着く。
食事が始まると酒が入っているのか、今日のマットは周りはそっちのけで何故だかアンジェラに女性を口説くようなことばかりを言ってくるので、彼女は話題を変えようと大学のことを口にした。
「ロード、大学は如何でしたか? 私はヘンリーと何度かご訪問させていただいたことがあるのですが、設備が整っていて皆さんとても楽しそうに見えましたわ」
「誰かお知り合いの教授でも?」
彼が話題に乗ってきてくれたので、ホッとして続ける。
「プロフェッサーハウエルにお世話になっておりまして……」
「ああ! ミスタハウエルが言っていた天使は君のことか!」
彼が何を言っているのか分からず、アンジェラは尋ね返す。
「天使……ですか?」
「ええ、彼がやけに調べ物をしていると思ったら『私の天使(エンジェル)ちゃんが悪魔のように質問攻めにしてくるのだ』と言っていました。きっとレディーアンジェラのことでしょう」
いつもはそんなに熱心な教授ではないのですよ、と彼は秘密を明かすように小声で言って笑う。
「もしかして、貴方もプロフェッサーハウエルにご師事を?」
「はい。経済史のゼミを取っていました」
彼の返事に、アンジェラは両の手の平を合わせて喜んだ。
「素敵な偶然ですね。私は女子で入学が許可されない為、教授に家庭教師をお願いしているのです。ヘンリーも一緒ですのよ」
「それはそれは。さすが若干十三歳で事業を立ち上げただけありますね。とても勉強熱心でいらっしゃる」