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実業家お嬢様と鈍感従者
第3章 十六歳の誕生日
彼女達は領地で育ち、家庭教師から一緒に教育を受けていた。
しかしヘンリーは元々の飲み込みの速さ、自身で図書室(ライブラリー)の書籍でも知識を習得する勉学への貪欲な好奇心をアンジェラの父に買われ、貴族の子弟若しくは中産階級の子息しか入ることを許されない、ロンドンの名門パブリックスクール・ウェストミンスターに進学した。
彼が十三歳、アンジェラが六歳の時だった。
ヘンリーが領地を出てロンドンに経って一ヶ月。
アンジェラは彼を恋しく思うあまり、毎日泣き暮らして食事も取れず、みるみる痩せ衰えて死の淵に立った。
焦った彼女の両親はヘンリーがロンドンにいる期間は、彼女もロンドンで暮らす許可を与えてくれた。
そう、アンジェラはずっとヘンリーの傍にいて、彼に恋をしてきた。
ヘンリーは子供の頃からとても素敵だった。
焦げ茶色(ブルネット)のさらさらの髪に、理知的な緑色の瞳。繊細さを感じさせる彫刻のような骨格。
外見は綺麗で高貴な貴族の子息にしか見えなかった彼は、内面は典型的なガキ大将で、いつも何処かに傷を作っている子供だった。
悪戯っ子でやんちゃなヘンリーだったが芯は慈悲深くて優しく、アンジェラを本当の妹以上に可愛がってくれた。
しかし、彼女がいくら「ヘンリーのお嫁さんになりたい」と言っても、笑って相手にしてくれなかった。
甘やかされ放題で我侭に育ったアンジェラはそんな彼の態度に焦り、父に「十歳の自分の誕生日プレゼントはヘンリーとの婚約がいい」と言ってしまった。
「ほう、そうかそうか。アンジーももう、男の子に興味のある年になったのか。よしよし、父上がお前にお似合いの、貴族の婚約者を直ぐに探してやるからな」
父は相好を崩してアンジェラを抱き上げたが、小さな彼女は父の胸に腕を突っ張って抗議した。
「そうじゃありませんわ、お父様! ヘンリーじゃないと嫌なの。ヘンリーだけが私の王子様なの!」
「ほ~〜う」
彼女の答えを聞いた父は、ものすごく意地悪そうな顔で笑った。
「私、本気ですわ!」
「では、ヘンリーの一家は当家から放り出すしかないな」
アンジェラを床に降ろした父は、そう言ってアンジェラを見下ろした。
彼女は一体何を言われたのか咄嗟に理解できなかった。
「え? ……何を言っているの? ……どうして、そうなるの?」