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実業家お嬢様と鈍感従者
第10章 意中の彼を落とす作戦・六 汝、適度なスキンシップを心掛けよ!

瞳に捉われた様に目が反らせない……反らせたくない……。

瞬きも出来ずじっと吸い寄せられるように彼の瞳を見つめていると、涙が潤んできて視界がぼんやりと霞む。

自分の鼻にすべらかな何かが触れ、ちょっとしてからそれは彼の鼻なのだと分かった。

ヘンリーの頬に添えた片手が熱い。

(もっと彼に触れたい……触れて欲しい)

その気持ちに突き動かされて身体がヘンリーのほうに傾く。

また鼻が触れあい、アンジェラの唇を何かが掠めたとき、ヘンリーがばっと彼女から勢いよく身体を離した。

「………」

お互い呆然と相手を見やって、しばしどちらも言葉を発さなかった。

ヘンリーは膝に置いた本を取って立ち上がると、そのまま何処かへ立ち去ってしまった。

取り残されたアンジェラは今起こった事が信じられず、その場に座りこんだまま動けなくなった。





「どうすればいいのかしら……」

アンジェラは困惑していた。

ヘンリーと見詰め合った時、あの熱く覗き込んでくる瞳を見て、アンジェラは彼も同じ気持ちでいてくれているのだと思っていた。

だからもっと触れ合いたいと思ったのだが、彼は違ったのだろうか。

持ち出していたクッションを抱えて大きな溜息を付きながら私室の扉を開く。

するとリビングに花束を抱えたヘンリーが立っていた。

「お嬢様、マシュー卿から贈り物が届いております」

彼は何も無かったかのように、いつも通り冷静にアンジェラに話しかける。

そのことにもショックを受けたが、更にその発せられた名前に言葉を失った。

何故マシュー卿から贈り物など頂かなければならないのだろうか。

「………」 

ヘンリーは入口に立ち尽くすアンジェラに歩み寄ると、手にしていた大きな花束を彼女に見せ、センスよく包装された長方形の箱を差し出してきた。

しかしアンジェラはあんな侮辱を受けた人からの贈り物など受け取る気にもなれず、手を出さなかった。

ヘンリーはそんな彼女の様子を訝しげに見ていた。

「……お開けしても宜しいですか?」

そう聞かれた問いにアンジェラがうんともすんとも反応出来ずにいると、彼は小さく嘆息して箱を開けた。

中を確認した彼の表情がとたんに曇る。

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