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実業家お嬢様と鈍感従者
第10章 意中の彼を落とす作戦・六 汝、適度なスキンシップを心掛けよ!
「これは……お嬢様の扇ですよね?」
彼がアンジェラに見せた箱の中身は、マシュー卿に最後にお会いした時になくしたと思っていた扇だった。
どうやらあの話をしている時に彼女は忘れて帰ってしまったらしい。
「………」
扇の上に小さなカードが置かれていた。アンジェラはそれを嫌々ながら手に取り裏返す。
愛しい人。私の気持ちは変わりません。
またお会いできる日を楽しみにしています。 M
文面に目を通したアンジェラはぞっとして、手からカードを取り落としてしまった。
(気持ちは変わらないって……あの人は本当に親友を自分の妻の愛人にさせる、そんなおぞましい事を考えているの?)
胃が気持ちわるく感じ、口に手を押し当てて吐き気を堪える。
アンジェラの様子に尋常でない様子を嗅ぎ取ったらしいヘンリーが、すっと屈んでカードを取り上げた。
アンジェラは今更ながらしまったと思い、彼からカードを取り上げようとした。
しかし時既に遅く、彼はカードを読んで目を見開いていた。
「受け取りたく……ない……」
彼に問い詰められるより先に、アンジェラは自分の意思を伝えて、ヘンリーと花束から目を背けた。
扇ももう要らない、花だって絶対に受け取りたくない。
「……分かりました。ただ、マシュー卿ももう領地に戻られており、今から何日も掛けてこの花を送り返すのは、あまりにも悪質で酷いなさり様かと思います」
ヘンリーのその答えが聞き間違えかと彼を振り返ったが、彼は至極落ち着いていた。
「じゃあ捨ててっ!」
大声で拒絶の意思を露わにすると、ヘンリーは目を見張ってアンジェラに問いかけてきた。
「……お嬢様? 彼と何かあったのですか?」
「………」
黙りこんだアンジェラに、彼は小さく被りをふる。
「では、手紙をお書き下さい。通常でしたら礼状を送るところですが、ご遠慮したい旨、一筆したためられればよいでしょう」
「いやったらイヤ!」
何故彼は主よりもマシュー卿の肩を持つようなことばかりを言うのだろう。
苛々とする気持ちのまま、アンジェラは叫んだ。