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実業家お嬢様と鈍感従者
第11章 仮面舞踏会
アンジェラは繋がれた手を、無意識にぎゅっと握りしめていた。
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
気がついたヘンリーが躍りながらアンジェラの顔を覗き込んでくる。
熱い……何もかもが熱い。繋がれた手も、手を添えられた腰も、頬も。
「……ヘンリー、王子様みたい」
ヘンリーが眩しすぎてまともに直視できないアンジェラは、それでも彼の瞳をちらりと見つめ、はにかんでそう小さく囁く。
自分の熱い体温が彼に伝わっているではないかと、恥ずかしい。
だがヘンリーは何故か苦しそうな表情になり、小さく嘆息した。
「また、『恋の駆け引き』ですか?」
ヘンリーの放った言葉がぐさりとアンジェラ胸を穿つ。
顔を上げて踊らなければならないのに、首は言うことを利かずゆっくりと下降し、彼の胸の辺りで視界が止まった。
「………………」
(どれだけ言葉を重ねても、態度で示しても……伝わらない……)
穿たれた銃創から、どろどろとした溶岩のような熱くて醜悪な塊が、ゆったりと流れ出す。
頭の片隅で、行き場を失った思いはこうやって昇華させられるのかと、妙に冷静に考えている自分がいた。
その後どうやって踊ったのかは記憶にない。
永遠の責め苦にも似た一曲をなんとか踊りきると、お互い向かい合って礼をする。
例年ならアンジェラが何度もヘンリーと踊りたがってごねるところだが、彼女は一刻も早く彼の元から逃げ出そうと足早に離れた。
「……お嬢様?」
背中に不思議そうな声がかけられたがアンジェラは聞こえないフリをし、踊り始めた使用人達の隙間をぬって露台(バルコニー)へと逃げた。
誰の目にも留まらぬよう、露台の隅の死角に身を寄せる。
秋の匂いを含んだ少し乾燥した夜気が、徐々に身体の熱を奪ってくれる。
溢れ続ける熱いものもその冷気で徐々に冷え固まり、傷口を塞いだ。
十分ほどそうしていると、何とか気持ちは落ち着いた。
しかしダンスなどもうする気にもならず、アンジェラ石造りの露台の手すりにただ寄り掛かってじっとしていた。
「……なにをやっているのかしら、私……」
もうすぐ十七歳になろうというのに自分の気持ちもコントロール出来ず、結果身動きが取れなくなってこんな所に隠れている。
ヘンリーでなくとも、こんな惨めな自分は誰にも愛される資格はないのかもしれない。