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実業家お嬢様と鈍感従者
第11章 仮面舞踏会
アンジェラは正直戸惑っていた。
今までこんなに自分を卑下したり、後悔したりなどしたことがなかった。
思い立ったら即実行しないと気がすまない性分で、周りの助けもあって彼女が思った事はほぼ成功してきた。
(そう、ヘンリーへの恋以外は……)
溜め息をついてちらりとホールを振り返る。
一際背が高くて姿勢の良い彼はどこにいてもすぐ分かる。
ヘンリーはメイドと踊っていた。
彼の傍には次の相手に申し込まれようと、頬をピンクに染めたメイド達が大勢いた。
皆それぞれ綺麗に着かざっている。
アンジェラは見ていられなくて、庭に視線を移して大広間に背を向けた。
(あの中に、将来ヘンリーの気持ちを射止める女性がいるのだろうか。彼が言う、自分に釣り合う女性が……)
「アンジェラ様、こんなところでお寒うございませんか?」
掛けられた声と同時に肩に上着を掛けられた。振り返ると、父の近侍の一人であるロビンが立っていた。
「あ……ありがとう。ちょっとのぼせてしまって……」
微笑んで適当に言い訳し、手すりから身体を離して彼に向き直る。
その視線の先に笑顔で踊るヘンリーの姿が入り、アンジェラは固まってしまった。
「………………」
(あんな笑顔……、私には見せてくれない……)
「ヘンリーの奴、女子を独り占めですよ」
アンジェラの視線の先に気づいたロビンが軽口を叩いて笑う。
「そのようね」
強がって発した相槌は、夜風に攫われて虚しく消えた。
「お嬢様、宜しければ一曲お相手願いますか?」
アンジェラは恭しく差し出された手を取り中に入った。
その後おざなりに数人と踊った後、両親に退席の了承を貰いに行った。
主人は今日の主役の使用人達の為に早々に退席する決まりなので、両親は彼女を直ぐ解放してくれた。
目立たないようこっそりと大広間を後にする。
誰もいない蝋燭に照らされた少し暗い廊下を通り過ぎ、階段を昇ろうと手すりに延ばした左手を、後ろからさっと取られた。
驚いて振り替えると、そこにはヘンリーが立っていた。
「………………」
微笑むでも怒るでもなく、静かに落ち着いた使用人の顔をした彼を、アンジェラは ぼうと見つめ返した。