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実業家お嬢様と鈍感従者
第11章 仮面舞踏会
翌日、昼前に起きたアンジェラの部屋に、目覚めの紅茶を運ぶ。
屋敷全体が昨日の享楽の色をまだ残しているかのように倦怠感が漂っており、ヘンリーはそれを振り払うように深く息を吐いて彼女の私室に入る。
「おはようございます、お嬢様」
メイドによって綺麗に支度を終えたアンジェラは、大人しくソファーに座っていた。
ただ新聞と紅茶を用意するヘンリーをちらちらと盗み見しているようで、やはり昨日の事を気にしているようだった。
「昼食はこちらにお持ちいたしますか?」
紅茶にも新聞にも手を付けず、真っ赤になっている彼女にそう声を掛けると、見ているこちらが可哀相になるくらいどもった返事を返してきた。
「え……えええと、だ、大丈夫っ! お腹すいてないから!」
そう言って、思い出したようにティーカップに手を付ける。
「そうですか。もし食欲が沸いたらお声がけ下さい。お仕事はどうなさいます? もしお疲れのようでしたら、今日はゆっくりなさるのも良いかと思いますが」
彼女の目は赤くなっていたし、おそらくあまり眠れなかったのだろう。
元気そうに見せているが、疲労が垣間見えた。
「え? 疲れてなんかないわ! し、仕事するわ……ええと、新聞新聞……昨日の株価は……」
ものすごく下手くそな演技をして自分に心配をかけないようにする彼女のいじらしさに、胸が詰まる。
(……もう、彼女を楽にしてさしあげなければ――)
「そうですか。では後ほど、昨日の業務報告をお持ちいたします。あと、私事ですが――来年の夏、結婚することになりました。一応ご報告をと思いまして」
冷静沈着に見えるよう細心の注意を払い、主に結婚の意思を報告する。
彼女の細い指から新聞が滑り、ばさりと音を立てて床に落ちた。
極限まで見開かれた蒼い瞳が先程まで新聞のあった辺りを凝視し、動きを止めていた。
ヘンリーは彼女に泣いて取り縋られても、口汚く罵られ貶されても耐えると心に決めていた。
しかし、見たい訳がない……最愛の人が自分のせいで傷つく姿など――!
けれど、アンジェラの反応は想像していたどれとも違っていた。
彼女は何か呑み下すかのように ゆっくりと瞬きすると、ソファーから立ち上がってヘンリーのほうに身体を向けた。