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実業家お嬢様と鈍感従者
第11章 仮面舞踏会
「お姉様! ニュースよ、ニュース! 良いニュース!」
珍しく妹のスージーの方から、アンジェラの私室に飛び込むように入ってくる。
いつも冷静で一歩引いた態度を取る妹のその慌てように、彼女は目を丸くして驚いた。
「なあに?」
「ポーラに聞いたの! ヘンリーったら彼女とは一年以上前に分かれているって! 結婚するなんて嘘なのよ!」
スージーは勢い込んでソファーに座っていたアンジェラの両肩を掴んで、ぶんぶん振りながら叫ぶ。
「………………」
「お姉様! 聞いてるっ?」
アンジェラは部屋に居たメイドに人払いをさせ妹と二人きりになると、まるで怒っているかのような表情の妹に微笑んだ。
「聞いているわ」
「じゃあ……っ」
「私、知っていたわ」
食って掛る妹にそう言うと、彼女はそのまま固まったようにアンジェラを凝視した。
「……え……?」
「途中からね……。なんとなく、ヘンリーが嘘を付いているのに気付いたの」
「じ、じゃあなんで? なんでヘンリーのことを諦めるの?」
スージーはまるで自分のことのように必死になってアンジェラに言い募る。
涙目になった妹を少し意外に思いながらも、そう言えば見た目は分かりにくいが、昔からいつも姉想いの優しい妹だったなと思い返した。
落ち着かせようと妹の両肩を優しく包むと、自分の隣に座らせる。
「……もう、私のために苦しませたくない……。彼、嘘を吐くのが下手なの。だって嘘が嫌いなのだもの。なのにね、私のことを思って、ずっとついていた」
「………………」
スージーはアンジェラの気持ちが本当か図りかねるように、じっと彼女の瞳を覗き込んできた。
純粋で真っ直ぐで、曇り一つない綺麗な その蒼い瞳――きっともう、自分には無いものだ。
「これがヘンリーの答えなのよ」
「……お姉様」
アンジェラはずっと、十七歳の誕生日は隣にヘンリーがいて、二人の婚約を祝う皆に囲まれた、素晴らしい日になると信じて疑っていなかった。
父との無謀とも思える『契約』にも少女時代の全てを捧げ、死に物狂いで立ち向かった。
今年になってやっと彼に告白でき、振られてもずっと彼を振り向かせようと必死になった。