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実業家お嬢様と鈍感従者
第11章 仮面舞踏会
しかし、結局アンジェラはヘンリーが生きていく為にやむなく身に付けた『仮面』を外すことが出来なかった。
(彼に仮面を外させるまでの価値を、私の中に見出させることが出来なかった)
「スージー……。私、逃げているのかしら?」
「え?」
ぼそりと零したアンジェラの言葉に、妹が聞き返す。
「私、これ以上、自分がヘンリーに傷付けられたくなくて、逃げているのかしらね?」
「そんな、こと……」
酷な質問を、何の落ち度も無い妹に突きつける。
ああ、自分は本当に独り善がりな性格だったのだなと、今更ながら心の底で思った。
「分からないの。これは諦めなのか、逃げているだけなのか……」
アンジェラの泣き言に、スージーは必死に思案してくれているようだった。
笑って「ごめんね」と言って彼女を解放してあげなくてはと思った。
今までも妹は充分 自分のよき理解者として励まし、発破を掛け続けてくれた。
笑おうと気を引き締めたアンジェラを、妹は真剣に見つめて口を開いた。
「お姉様……。私ね、限界って自分で創る物だと思う。でもね、自分の心が壊れるまで自分を追い込むのも馬鹿だと思うの。だから、これはお姉様自身でないと分からないことだと思うわ」
まだ十四歳の言葉とは思えない彼女の返答に、アンジェラは自分の中の張り詰めていた糸が切れた音を聞いた。
「怖いの……。初めて味わったの……、こんな気持ち……っ」
カタカタと身体が震える。
妹にこれ以上心配をかけてはいけないと頭では分かっているのに、今は彼女に縋りつかないと気がふれてしまいそうだった。
「仕事も恋愛も、目的のためには手段を選ばずやってきたわ……。でも、目的が無くなって――怖いの……っ」
(そう……。私は生まれて初めて――挫折を味わったのだ)
妹はアンジェラの身体をいつまでもぎゅっと抱き締めてくれた。
自分よりも背が低くて華奢な妹の暖かいその温もりに、アンジェラは必死の思いで縋りついた。
「私は……、お姉様は充分過ぎるほど頑張ったと思う。もう、お姉様の好きにすればいいわ――」
ヘンリーに受け入れられなかった――。
この事実はアンジェラに自信も自負も、何もかもを失わせた。
初めて味わった挫折。
それは今までどうやって立っていたのかさえも、忘れさせてしまった。