この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
実業家お嬢様と鈍感従者
第11章 仮面舞踏会
唯一の心の拠り所にしようとした仕事も、経営者として迫られる判断に自信が持てなくなった。
ずるずると時間ばかりが過ぎ、最後はやっつけにも近い賭けのように決断をしてしまう。
そうなるともう、生きがいさえ感じていた仕事も、苦痛以外の何物でもなかった。
自分の会社の社員や、信頼して資産を預けてくれている投資家、領地で家具を作ってくれる領民達の数を思うと、負担が増し重圧を感じた。
睡眠を削ってだらだらと無駄な時間を過ごし、朦朧とした頭でまた決断が出来ない。
そうずぶずぶと悪循環に陥っているのに、自分ではもうどうしようも無かった。
近侍兼秘書として手を差し伸べてくれるヘンリーを、冷酷にあしらい続けている。
ただの甘えだと言うのは、自分が一番分かっていた。
もしかしたら時間が解決してくれるのかもとさえ思った。
『契約』の期限まで三ヶ月を切っていた。
そして、私は逃げた――。
父はヘンリーを自分の近侍にしたいと思っていたはず。
そう思っていたから高い学費を出して彼を学校に通わせてくれた。
けれどアンジェラが我が儘を言って、未来の女伯爵の近侍として、ヘンリーを自分に仕えさせた。
表向きは「私の頭に付いてこられるのは彼しかいないから、彼以外はいらない」 となっている。
勿論それに嘘はない。
でも本当は「ヘンリーを私の傍に置いておきたい」ただ、それだけだった。
だが、ヘンリーの気持ちはどうだったのだろう。
自分は全く彼の気持ちを考えなかった。
彼からしてみれば、アンジェラの近侍では無く父の筆頭近侍になれば、彼の父の次の地位に就けたというのに。
(何とも思っていない私に仕え続けるのは、彼にとって苦痛なだけに違いない――)
「もう、彼を解放してあげなくちゃ……」
アンジェラはそう独り言ちると、父の私室の扉をノックした。