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実業家お嬢様と鈍感従者
第3章 十六歳の誕生日

「お父様! お願い。私、なんでもするわ。お父様の言うとおりにします。だから……だから、ヘンリー達を首にしないで! お願い――っ!」

アンジェラは必死の思いで父に駆け寄り、取り縋った。

自分の考えなしの行動を、深く深く後悔した。

「………」

「旦那様、お呼びでしょうか」

ベルで呼び出された執事――ヘンリーの父――が部屋に入ってきたが、伯爵は顎で追い返した。

執事はアンジェラが半べそで父のガウンにしがみ付いていているのを見てぎょっとしていたが、直ぐに出て行った。

「……なんでもする……だと?」

目をむいてアンジェラを見下す父に恐怖を感じながらも、彼女は引き下がるわけにはいかず言い募る。

「何でもします。お父様の言うとおりにします。だから――」

「ではアンジー、わしと『契約』をしようではないか」

「『契約』……?」

「ああ。お前が社交界にデビューする十七歳の誕生日までに、わが伯爵家の総資産の五分の一に充つる資産を自分の手で作り出してみろ。そうすればヘンリーの一家をこのまま雇ってやる」

「……私が……ですか?」

ぽかんと見返すアンジェラに、父は目を眇めてみせる。

「何でもやるのであろう?」

「………」

まず自分の家の総資産がいくらあるかなど、十歳のアンジェラが知っているはずも無く、その五分の一を稼ぐことが可能なのかどうかの判断が付かなかった。

さらに、今から七年後という期間が長いのか短いのかも分からなかった。

今でさえ雇っている家庭教師では役に立たず、館の図書室にある本で自分で勉強をしている状況なのに、一体誰から稼ぐ方法を学べというのだろうか。

黙りこんで下を向いてしまったアンジェラは、床の精巧な絨毯の模様を凝視しながら、父の気持ちを変えられる代替案がないか、必死に頭をフル回転させた。

焦りで握り締めた掌がじっとりと汗ばむ。

しかし父はまるで彼女に考える時間を与えないかのように、直ぐに返事を求めてきた。

「出来ぬのか。では、この話はなかったことにしよう」

背を向けた父が後ろ手で、しっしと彼女の退出を促す。

(ここで私が出来ないといってしまったら、愛するヘンリーと彼の家族がたった今、路頭に迷ってしまう……この雪深い一月に!)

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