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実業家お嬢様と鈍感従者
第12章 永遠の別れ
「もう、時効だろうし、言っちゃってもいいわよね……」
彼女は十四歳という年齢には不釣合いな、どこか達観した空気を纏ってヘンリーに語りかけてきた。
「時効……、でございますか?」
聞き返した彼を一瞥すると、彼女は目の前に広がる庭園に向かって歩き出した。
アンジェラと同じ、しかしストレートの豊かな金色の髪がふわりと広がる。
庭の奥まで歩き続けて周りに人気が無い辺りに来ると、彼女は付いてきた彼を振り返った。
「私、立ち聞きしちゃったのよね、六年前。お父様とお姉様が取引をしているのを」
「……取引……、ですか?」
話が見えなくて怪訝な表情を浮かべたヘンリーを、スージーが呆れた顔で見返してきた。
「ここまで言ってまだ解からない? 貴方本当に頭いいの?」
「………………」
なんだか随分と無茶苦茶なことを言われている気がしたが、ヘンリーは何のことか分からず、黙り込むしかなかった。
そんな彼にスージーは先を続けた。
「お姉様ね……十歳の時、お父様に貴方との婚約をおねだりしたの。でもお父様は勿論そんなことを許してくれるはずも無くてね……。貴方達家族をこの家から追い出すってお姉様を脅したの」
「……はい?」
いきなり聞かされた事に思考が追いつかない。
確かにアンジェラは自分を無邪気に慕ってくれてはいたが、婚約など初めて耳にした。
「お姉様は『何でもするからそれだけは止めて』と食い下がったわ。でも、あのタヌキ親父『社交界にデビューする十七歳の誕生日までに、伯爵家の総資産の五分の一に充つる資産を生み出せたら、ヘンリーとの結婚を許してやる』って言ったの。まったく、十歳の女の子に言う言葉じゃないでしょっ!」
スージーはその時のことを思い出したのか、語尾を荒げて怒りを露わにした。
しかしヘンリーには彼女のそんな怒りは耳に入らず、前半の発言のほうで混乱した。
「な……っ! そんな……。で、では、お嬢様は私の家族を守る為に、ずっと事業をされていたと言うのですか?」
開いた口が塞がらない。
この伯爵家の父娘はだいぶ変わっていると思っていたが、ここまで常識から外れているとは思わなかった。
「そういうこと。確かにお姉様の自業自得ではあるけれど、でもたかが子供の我侭なのだから、責められるべきでもないでしょ」