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実業家お嬢様と鈍感従者
第12章 永遠の別れ
言いかけた言葉は心の中で霧散し、形をなさなかった。
どうすればよいのか、混乱して考えが全くまとまらなかった。
「……――っ あんたはねっ! お姉様の思いに一度も真正面から向き合わず、保身の為だけにお姉様を拒絶したのよ。そうよ、こんなしょうもない男になんて、振られて良かったのよっ!」
そうまくし立てたスージーは、顔を真っ赤にしてはあはあと肩で息をしながら、まっすぐにヘンリーの事を睨んだ。
アンジェラと同じ、深く蒼い、その瞳で――。
「………………」
「……お姉様、もう領地(ここ)には二度と戻ってこないと思うわ」
スージーはそう小さく呟くと、泣きそうな顔で唇を噛み締めてその場を去っていった。
ヘンリーは腰が抜けたように木の幹に身体を預け、その場にずるずるとへたり込んでしまった。
*
衝撃的だった。
田舎の広大な草原と小さな子供部屋だけが全ての今までの世界から、パブリックスクールという『世間』という名の世界に突然放り込まれた。
比較的リベラルな伯爵家で、乳兄弟としてアンジー達と平等に育てられた十三歳のヘンリーに突きつけられた、階級社会という自分では何ともならない現実。
「あれ、ここは二階だよなあ」
「ああ、なんで階下の者(ダウンステアーズ)がいるのだろう?」
「アフタヌーンティーを持って来たのではないのか?」
廊下で擦れ違う際や、休み時間の教室で繰り返される、労働者階級の自分に対する嫌がらせ。
時には足を掛けて転ばされたり、わざとぶつかられたりという直接的なものもあった。
全ての生徒がそういう態度を取ったわけではない。
ウェストミンスター校はイートン校のような貴族的な学校よりはまだ、中産階級の子息の占める割合が多い。
とはいえ、やはり大部分の生徒が『パブリックスクールとは教養を身につけた紳士になり、いかに国の指導者になるかを学ぶ所』と捉えていた。
侮蔑と傲慢。
お嬢様達は上流階級で自分は労働者階級。
その差は愕然とさせられるほど大きくて両者は相容れないものなのだということを、骨の髄まで叩き込まれた。