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実業家お嬢様と鈍感従者
第12章 永遠の別れ
「それにしてもこの本は、領地の運営とは少し違う分野のような気がするが?」
「ああ、それは当家のお嬢様が企業経営に興味をお持ちなので、そのサポートをするためもあるのです」
「え? 女がか?」
度肝を抜かれたような表情をした彼の瞳が輝いていた。
「少し変わった方なので」
「行き送れたとか?」
彼が自分のお嬢様に不躾なことを言うことに少しむっとして、言い返す。
「違います。お嬢様はまだ十歳です」
「ええ! 十歳でそんなものに興味があるのか?」
「とても頭の良い方ですので……」
彼は面白そうにヘンリーの話を聞いていた。
それから何度か図書室で会うようになり、彼がその年で既に株取引をしていることや、見かけによらず子供のように悪戯っ子なところや、女性との交際が盛んであるという悪癖も知り、いつしか気の置けない友達になっていた。
(彼のような貴族の子弟達が、アンジーの将来の伴侶になるのだ)
ヘンリーだけが世界の全ての、可愛い可愛いお嬢様。
その彼女がこの手の中から巣立って行くのは寂しいが、使用人ならば一生傍にいられる――。
そう自分に言い聞かせながら、ヘンリーは少しずつ大人の仮面を被っていったのだ。