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復讐の味は甘い果実に似て
第9章 さよならという儀式 ~ひかるの告白~
 あたしはレモンサワーを飲みながら、恵梨の言葉を少しだけ複雑な思いで聞いていた。

 確かに、恵梨と先輩のお別れの儀式は終了した。
 だが、先輩とお別れしなければならないのは、あたしも同じだ。
 先輩が、今月中に就職先の方に行ってしまうのは、もう決まっていることで、あたしが何のアクションも起こさなければ、あたしは、先輩とお別れする儀式さえ持つことができないのだ

 けれども、多分、今の先輩にとって、あたしは恵梨の存在を埋める慰めでしかない。
 あたしにしたって、未だに先輩のことが好きかどうかさえ、わからない。
 それでも、あたしの体には、もう、たっぷりと先輩の消せない記憶が刻まれているのだ。
 あたしはやるせない気持ちのまま、缶のサワーを一気にあおった。


「恵梨もさあ、最後ってことで、先輩にしっぽり抱いてもらえばいいじゃん。」
 酔いが回ってきたらしい明日香が、今度は恵梨に絡み始めた。
 酔ったうえでの言葉だろうけど、それは確かに、明日香らしい考え方のように思えた。
「……そんなことされたら、本当に忘れられなくなるよ……。」
 明日香の言葉に恵梨が答える。

 恵梨の気持ちはよくわかる。
 誰もが明日香のように、すっぱりと踏ん切りをつけられるわけではない。
 復讐のうえに、さよならという儀式までしなければ、想いを断ち切れない先輩や恵梨のような人間もいる。
 その点は、あたしも恐らく恵梨や先輩と同類のように思うのだ。
 
 その後も明日香は恵梨と話し続けていたが、あたしは先輩とのことを思い悩むばかりで、二人の会話は耳に入ってこなかった。
 昨日の疲れが残っているのか、あたしはサワー1缶を開けただけで、あっさりと睡魔に襲われてしまい、話し続ける恵梨と明日香をおいて、ベッドにもぐりこむことにした。

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