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復讐の味は甘い果実に似て
第10章 それぞれの朝
 卒業祝いの酒席で、僕は学生や院生の後輩たちに取り囲まれていた。
 酒を注いでくれた学生のなかには見知らぬ学生もいて、思わず、君、誰?と聞きそうになったが、後輩の立場からすれば、僕は就活の際のOB訪問の有力な候補先らしかった。
 こういう席で顔を売っておこうという気のようだ。
 やれやれ、ちゃっかりしてるなあ、と思ったが、彼らは彼らなりに真剣なのだろう。
 僕は彼らに聞かれるまま、役に立つどうかよくわからない自分の話をいくつかした。

 やがて、自分の席への来訪が落ち着くと、僕は指導教授の先生の席に行った。
「今になって、こういうことを言うのも何だが……お前には悪いことをしちゃったなあ。」
 僕にビールを注がれながら、先生がぽつりと漏らした。
 先生は、僕と恵梨が別れることになった原因が、自分の依頼したバイトの一件にあると思っているのだろう。
「いや、先生のせいじゃありませんよ。結局、僕と彼女は試練を乗り越えられなかった、ということです。」
 僕は、そう言って、再び先生のグラスにビールを注ぐ。

 別に先生に配慮したわけではなく、それは僕の本心だった。僕は、これからも何かの折に恵梨のことを振り返ったときに、同じように思うことだろう。
「彼女は、じゃなく、僕と彼女は、か。お前がそう思えるようになったというのは、多分、お前が人間として成長した、ということなんだろうな……ま、飲め。」
 そう言うと、先生は僕のグラスにビールを注いでくれた。

「俺なんかが人生を語るのはおこがましいかも知れんが、人生ってのは、一本の線みたいなもんだ。誰かと線が交わるときもあれば、何かの拍子で離れていくときもある。だからこそ、今、お前が交わっている線を大事にするんだ。……何だか、説教臭いな。すまん。」
 先生は照れながら、僕の注いだビールを一息にあおった。

 多分、それは真実なのだろう。
 出来る限り、誠実を尽くして接して、それでもなお、離れざるを得ない線だってある。
 だからこそ、今あるつながりを大事にしろ、という先生の言葉は、今の僕に対する格好の励ましのように思えた。
 僕は先生に礼を言い、また、先生のコップにビールを注いだ。

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