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復讐の味は甘い果実に似て
第10章 それぞれの朝
 卒業祝いの席が終わると、僕はこの街でするべき何もかもが終わってしまった。
 学生たちは外の居酒屋へ二次会に行き、二次会に行かなかった研究室の院生たちは、ぽつりぽつりと帰り始めていた。
 もう、僕は全ての荷物を就職先の寮に送り届けてしまっていて、アパートも引き払っていたので、後は、明日の出発に備えて、駅の近くのビジネスホテルにでも泊まるだけだった。
 結局、最後になってしまった僕は、研究室の自分のデスクに座って大きく伸びをすると、少しだけ名残惜しい気分で部屋の外に出た。

 だが、部屋の外には意外な人が立っていた。
「……天本さん……」
「卒業おめでとうございます、先輩。」
 もう、研究室に残っていたのは僕だけだったので、周りに気を使う必要もなかったが、僕は、彼女がわざわざ僕にお祝いを言いに来てくれた理由を図りかねていた。
「ありがとう。……だけど、わざわざそれを言いに?」
「そんなわけないじゃないですか。本当は、先輩を奪いに来ました。そのために、ずっと待ってたんです。」
 僕を奪う、という彼女の言葉の意味が分からなかった。
 彼女から処女を奪ったのは僕で、その僕自身は、もう誰のものでもなかった。

「正直言うと、あたしは自分の気持ちがわかりません。先輩に女にされて、滅茶苦茶、気持ちいいことを体に教え込まれて、忘れられなくされて。それでも先輩のことを好きかどうかさえわかりません。だって、気持ちより前に、体を奪われちゃったんですから、あたし。」
「……ごめん……天本さん。」

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