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復讐の味は甘い果実に似て
第10章 それぞれの朝
 結局、僕が天本さんを連れてきたのは駅の近くのラブホテルだった。
 僕一人なら、ネットで、どこか空いてるビジネスホテルでも探そうと思っていたけれど、意外なことになってしまった。
 僕は恵梨とセックスするときはいつも自分の部屋ばかりで、こういうところには、あまりきたことがなかった。少しばかり緊張気味の僕をよそに、天本さんはもう僕と朝まで過ごす腹を決めているらしく、落ち着いていた。

 僕は出来るだけ地味な内装の部屋の鍵を取り出すと、彼女を連れて部屋に入った。
 僕が荷物を部屋の隅に置き、ベッドの上に腰かけると、天本さんは僕に向き直った。
「ごめんなさい、痴女みたいな真似して。だけど、あたし、ちゃんと自分の心にケリをつけたかったんです。」
「わかったよ。でも、どういうことか、少し説明してくれるかな?」
「……あたし、全然、体に気持ちが追いつかないんです。心では少しづつ、先輩のことを好きになってるのに、体はもう、どうしようもないくらい先輩のことを求めていて。なのに、先輩はあたしのことなんか、気にもしてくれない。そんなの、悔しすぎるじゃないですか!」
 僕のことを好きだ、と言ってくれた彼女の言葉が僕には素直に嬉しかった。

 だけども、それを素直に喜んでいいのか、という疑問も同時に僕の中にこみ上げてきた。
 僕が怒りに任せてやってしまった復讐の熱も冷めぬうちに、僕の復讐に一方的に巻き込んでしまった天本さんに、当の僕が、何かを言う資格などあるのだろうか。
「ごめん……でも、僕は謝る以外に、君に何か言える立場じゃないと思っていた。」
「そんな言い訳こそ、今さらじゃないですか! 処女だったあたしを自分好みに仕込んで、狂うほどセックスに溺れさせて、素知らぬ顔で居なくなるなんて、許せると思いますか?」
 彼女は僕の耳元でそう言うと、僕をベッドに押し倒した。

「だから、今夜は先輩も同じくらい、あたしに溺れさせます。職場であたしのことを想い出して、毎晩、寂しくオナニーに耽るくらいに……これは、あたしの復讐なんです。」
 そして、僕の口は、そのまま彼女の唇でふさがれた。

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