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復讐の味は甘い果実に似て
第10章 それぞれの朝
 確かに、彼女の言う通りだった。
 今の僕が彼女に付き合ってくれ、と言っても、それは彼女を疑心暗鬼にするだけだ。
 処女を奪ったから責任を取っただけ、とか、恵梨と別れて寂しいだけ、とか、彼女のなかで僕への疑念ばかりが湧いてきて、僕が愛情を主張すればするだけ、うそ寒くなってしまうだろう。
 そのことを、彼女はとっくに分かっていたのだ。

「……あたしのこと、好きだって思ってくれるなら、あたしの体に教えてください。今は、今のあたしは……気持ちいいことしか信じません。」

 僕の目を見つめて、そう言った彼女は、もう、2カ月前の、ただ状況に流されるだけの、健気な処女の女の子ではなかった。それは、女としてのプライドを容赦なく僕にぶつけて、自分の存在意義を僕に問いかけてくる激しい女の姿だった。
 そして、そういう彼女は、どうしようもないほどに淫らで、美しかった。

 僕の心の中に、彼女への愛しさと、彼女をモノにしたいという気持ちがこみ上げてきた。
「……なら、君を容赦なく気持ちよくして僕のものにしてやる。天本さ……いや、ひかる。」

「逆ですよ。あたしが先輩をものにするんだと言ったでしょう。あたしに溺れて、あたしを忘れられなくなるように。これは先輩への復讐なんです。あたしの体だけ奪って、そしらぬ顔で、あたしの前から居なくなろうとしたことへの。せいぜい新しい職場で、あたしのことを考えて、切ない思いをしてください。」


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