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復讐の味は甘い果実に似て
第2章 セリヌンティウスへの宣告
 だが、僕はこの非道な提案を持ちかけながら、一方では、恵梨が全てを正直に話すことを期待していた。
 僕が浮気や不倫を毛嫌いしているのは、多分、浮気という行為そのものよりも、母が僕や父に、平気な顔で嘘をつき続けたことに原因があると思うのだ。
 母は浮気を隠すために素知らぬ顔で、僕や父にいくつもいくつも嘘をついた。
 もう僕や父は、あらかたの事実を知っているというのに、見え見えの空しい嘘を重ねた。
 
 そして、父に問い詰められると、母は決まって泣いた。
 だが、これほど欺瞞に満ちた涙もあるまい。
 母は、嘘がバレたことを嘆いているのであって、信頼を裏切ったことを悔いているのではないのだ。
 僕には、目の前の恵梨の涙は、母と同様のものに思えて仕方なかった。

 僕はもう、十分苦しんだはずだ。
 もう恵梨とやり直すことはあり得ないけれども、最後くらい、全てを正直に話してくれ。
 そして、頼むから、僕に君への復讐のトリガーを引かせないでくれ。
 僕はそう祈りながら恵梨を見ていたが、当の恵梨はうつむいて泣きじゃくるばかりだった。

 突然、今まで何も話さなかったボブカットの女の子が立ち上がった。
「こんなのおかしいよ! なんで私が、恵梨のことで、あんたとセックスしないといけないのよ! あんた、頭がおかしいんじゃないの?」
 沈黙を破って、その香織とかいう女の子が僕にまくし立ててきた。

「……ま、それが普通の反応だよね。」
「はあ? 何? 開き直ってんの?」
「僕は君たちに何も強制するつもりはない。恵梨のことを信じているんなら、賭けに乗ればいいし、信じられないなら降りればいいだけだ。ただ、僕は善人面して人の傷を抉りにくるような人間は大嫌いなんでね。」
「明日香、悪いけど、私はもう降りる。こいつもこの賭けもおかしいよ、絶対。」
 香織とかいう女の子は席を立つと、捨て台詞を吐いて階段を降りて行った。

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