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復讐の味は甘い果実に似て
第2章 セリヌンティウスへの宣告
 明日香とひかるに決断を促しながら、それでもなお、僕は恵梨が自分自身の口から全てを話すことを期待していた。
 少しだけ席を外して時間を与えてみようか、と思った。
 彼女たちだって、自分の貞操がかかっているのだから、少なくとも恵梨にきちんと真偽を確認するはずだ。
「すこし、用を足してくる。戻るまでに結論を出してくれ。」
 そう言って僕は席を立った。

 僕はトイレに入ると、便座に座って、恵梨が彼女たちに全てを話すことを祈った。
 そもそも大家さんとマスターの話を繋ぎ合わせれば、結論は一つしかないのだ。
 恵梨はテニスサークルの男と2カ月前から浮気していた、というだけだ。

 そこには嘘で取り繕えるところなど全くないわけで、「説明する」という彼女たちの話しぶりがおかしいのだ。恐らく、恵梨は彼女たちにも嘘をついているのだろう。
 今、恵梨が何も言わなければ、僕は復讐鬼になって恵梨の何もかもを破壊してしまう。
 頼むから、本当のことを話してくれ。
 僕を復讐鬼にしないでくれ。
 僕は目を閉じてそう祈った。

 だが、一方で僕の復讐の炎は、すでに押さえ難いほどに激しく燃え盛っていた。
 あの明日香とひかるという2人を徹底的に犯って犯って犯り尽くし、お前を裏切った恵梨を絶望の深淵へ沈めてやれ。
 それはお前に与えられた復讐という名の甘美な果実だ。
 お前の欲望のままに、齧り、舐め、しゃぶり、食らい尽くせ。
 
 心のなかに燃えたぎるどす黒い炎のなかで、僕はそういう声を聞いた気がした。

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