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復讐の味は甘い果実に似て
第2章 セリヌンティウスへの宣告
「要するに、あの夜、恵梨は普段からダブルスを組んでいる男にだまされて、酔いのせいもあって男を部屋にあげてしまった。そして、寝入ったところをその男に押し倒された。それはあくまで偶発的な事故で、僕は不幸なことに、たまたまそこに居合わせた。恵梨に浮気の意思はなかった。……そういうことでいいのかな?」

「はい、恵梨自身にも落ち度はありますが、恵梨はそのことで苦しんでいます。今後は、わたしたちも注意していきますので、何とか恵梨とやり直していただけませんか。」
「……そっちのお話とやらは理解した。で、その本間とかいう男は?」
「本来なら、彼にお詫びしてもらうところですが、あいにく実家に帰省しているんです。」

 なるほど、よくできた作り話だ、と思った。
 恵梨に浮気の意思はなく、当の浮気相手は帰省中、とくれば、事前に話を合わせられていれば、こっちは確認の取りようがない。

「……残念だ。」
 思わず僕の口から声が漏れた。
「君は僕だけじゃなく、友達にまで嘘をついて、全員を不幸に巻き込むのか?」
 僕は恵梨に向かって言った。
 恵梨はうつむいたまま、僕と視線を合わせず、少しだけ肩を震わせた。

「どういうことですか?」
 明らかに狼狽した声で明日香が聞いてくる。
「恵梨は、その本間とかいう男を2カ月前から部屋に引っ張り込んでいる。合鍵を返しに行ったときに大家さんが教えてくれたよ。3日と開けずにやってきてやりまくるからお隣の部屋の住人から苦情が来てるぞ、ってね。」

「ええっ! 違うの! 違うの!」
 初めて恵梨は顔をあげて、口を開いた。
 だが、それはもう、完全にバレた嘘を必死で隠そうとする空しい言葉でしかなかった。

「喫茶店のマスターにも聞いたよ。最近は、ラケットカバーを持った男とよく来てるって言ってたぞ。マスターは、僕とは、とうに別れたもんだと思ってたみたいだけどね。」
「……ああっ!……ああ……ああっ!」
 恵梨は声をあげながら、テーブルに突っ伏して泣き出した。

 このテーブルに、ついにメロスは現れなかった。
 そしてセリヌンティウスを気取った女の子たちへは、僕から宣告を下すのみとなった。

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