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第29章 チート系ヒロインは3次元にて恋をする

「何でもないって顔してないけど。」

「本当に何でもないから…。」

「…アイツと何かあった？」

安岡くんは腕を掴む手に僅かに力を入れて小声で聞いてきた。
アイツというのはたぶん、課長のこと。

「…何もないよ。何度も言うけどそういう関係じゃないから。」

「こんなとこで言うのもなんだけど、俺なら…悲しませたりしないよ。」


安岡くんの真剣な表情に落ち込み気味の心の内がグラつく気がした。
彼の手を取ったら、楽になれるだろうか？
他に好きな人がいるかもしれない人を想うのがこんなに辛いことだとは思わなかった。

フリでも彼女でいいって思ってたはずなのにーー…。




「安岡、佐倉さん。」

資料室から戻ってきた課長に遠くで声をかけられ、パッと手を離した。

「15時からミーティングあるから、会議室に集合で。」

いつもとは違う淡々とした物言いでそれだけ言うと、営業部のオフィスへと戻る。


「とりあえず今は仕事に集中しろ！その顔…どうにかしてこいよ。」

今は仕事に集中しなきゃーー…。


デスクに戻り、カバンの中なら化粧ポーチを持って、トイレで軽くメイクを直した。

大きく息を吸ってーー…。

ーー…吐く。

それだけでも少し落ち着いた気はする。