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レディー・マスケティアーズ
第11章 アトス&アラミス ――成城 木庭敦子の屋敷
「ある人に誘われたから。この国のために力を貸してくれと。一時の熱病にとりつかれただけだったかもしれない。だけど、その若者は真剣だった。汚れのない、澄んだ心の持ち主だった。なのに、その人は組織の人間に殺された」
「ふん。訓練に耐えられなかっただけじゃないのかい」
「いいえ。組織の在り方に疑問を感じ、この事実を告発しようとした。殺されたのは、そのためよ。しかも、道具に使われたのは薬。あんたが教えた道具だった」
「知ったことかい。だけど、その若者って男だったんだろ? そうだ。あんたが惚れた男だったんだ」
「忘れたわ。そんな遠い昔」
 アトスは敦子の首に掛けていた両手を離し、ぶよぶよの体を床に投げ飛ばした。それを見下ろすように、自分はベッドの脇に腰を下ろす。
「もしかして、わたしを助けてくれる気になったのかい? 昔の男のことを思い出して。それとも、昔自分がいた組織の仲間だったから」
 ゼイゼイと息を吐きながら、敦子が媚びるような目で見上げる。
「いいえ、おしゃべりに飽きただけ。あんたとわたしの違いに、まだ気が付かないの?」
「わたしとあんたの違い?」
「そうよ。あんたの武器は薬。薬がなければ何もできない。だけど、わたしの武器はわたし自身」
 アトスは、起き上がろうとする敦子の肩を足で蹴り飛ばした。
「さあ、懐かしいわたしの講義の時間よ」
 小さく笑いを浮かべたアトスが、胸元のプチダイヤのネックレスを左右に揺らす。
「あなたがしたいこと、今やってみたいことを頭に描いて。思うだけでいいの。今何がしたいのか」
「そっ、それは。やめて、頼むからやめて!」
 敦子の顔が、恐怖に引きつった。アトスは意にも介さない。
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