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レディー・マスケティアーズ
第5章 作戦開始 ――恵比寿 海綿清掃のフロア
「桜井美里、二十三歳。今年四月に、都内のシステム開発会社に入社したばかりだった。言うならば、ピカピカの社会人一年生だ。そして、その会社というのが、表参道に本社を構えるトーホー開発。これが今回の標的だ」
坂上がキーボードを叩くと、今度はトーホー開発の真新しい本社ビルが写し出された。フロアにいた全員が、小さく身を乗り出す。
トーホー開発。
新聞や雑誌の広告で、よく目にする会社名だ。十二階建てのガラス張りのビルは、表参道界隈のどのビルと比べてもきらびやかに見えた。
「では、ここからはヨシさんに任せよう」
ヨシさんと呼ばれた男が立ち上がった。
サングラスを外すと、白髪交じりの濃い眉毛が覗く。広くなった額と深い皺が刻まれた顔から見ると、六十を過ぎているのだろう。室内というのに、くたびれたハンチング帽をかぶったままだ。
「ああ、吉岡です。このトーホー開発について若干の説明を」
ヨシさんこと吉岡は、胸ポケットから老眼鏡と分厚い手帳を取り出した。
「トーホー開発。一九七五年設立の情報サービス会社。システム開発と運用・保守サービスを社業としている。資本金五千万、社員数は三百五十人。東京本社の他に、札幌と名古屋に事業所があり、本社とは別に都内の中野坂上にサービス担当オフィスを置いている」
フロアにいる誰もがメモを取っている様子はなかったが、無駄口を叩く人間は一人もいない。さっきまでやり合っていたアラミスもポルトスも、全員の目と耳が吉岡に注がれている。
坂上がキーボードを叩くと、今度はトーホー開発の真新しい本社ビルが写し出された。フロアにいた全員が、小さく身を乗り出す。
トーホー開発。
新聞や雑誌の広告で、よく目にする会社名だ。十二階建てのガラス張りのビルは、表参道界隈のどのビルと比べてもきらびやかに見えた。
「では、ここからはヨシさんに任せよう」
ヨシさんと呼ばれた男が立ち上がった。
サングラスを外すと、白髪交じりの濃い眉毛が覗く。広くなった額と深い皺が刻まれた顔から見ると、六十を過ぎているのだろう。室内というのに、くたびれたハンチング帽をかぶったままだ。
「ああ、吉岡です。このトーホー開発について若干の説明を」
ヨシさんこと吉岡は、胸ポケットから老眼鏡と分厚い手帳を取り出した。
「トーホー開発。一九七五年設立の情報サービス会社。システム開発と運用・保守サービスを社業としている。資本金五千万、社員数は三百五十人。東京本社の他に、札幌と名古屋に事業所があり、本社とは別に都内の中野坂上にサービス担当オフィスを置いている」
フロアにいる誰もがメモを取っている様子はなかったが、無駄口を叩く人間は一人もいない。さっきまでやり合っていたアラミスもポルトスも、全員の目と耳が吉岡に注がれている。