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レディー・マスケティアーズ
第6章 ポルトス ――トーホー開発 特命企画部
 目の前にある山岸沙也子の体。
 うっかりどこかに触れただけで指先から射精しかねない。沙也子が来てからの二週間、特命企画部だけでなく、会社中の男性社員がざわついているのも無理なかった。
「どうだい。うちに来て二週間。コピー取りや郵便物配りの地味な仕事も嫌がらずこなしてくれているようだし、データ入力を頼んでも正確で手早いと、部のみんなが手放しで褒めている。少しは社の空気に慣れたかい?」
 いかにも温厚な上司を振る舞って、田野倉がにこやかに言った。
「はい。皆さん、とても良くしてくださって……。それなのに、わたし……」
 顔を伏せた弾みに、ほつれた髪が額にかかる。
「今日、ちょっとした騒ぎがあったことを聞いたよ。君も知っているね」
 田野倉の言葉に、早くも沙也子が涙ぐむ。
「えっ、ええ。社の皆さんにとんでもないご迷惑をおかけして……。わたくし、今すぐ会社を辞めさせていただきます。そうでもしないと、皆さんにこれ以上……」
「おい、おい。何もそんなことで呼んだんじゃないよ。会社は、少なくともこの会社は、一度雇った社員のクビを簡単に切ったりはしない。少し詳しい事情を話してもらえないか。さっきの連中、確か鬼塚金融と名乗っていたが……」
 下心を垣間見られないよう、田野倉は奥歯に力を込めた。無理に足を組んだのも、固くなった股間を気取られないためだ。
 沙也子の黒いスカートから、きちんと揃えられた膝頭が覗く。それだけで、その奥にあるものを想像してしまう。さぞかし、いい「あれ」をしているんだろうな。
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