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レディー・マスケティアーズ
第7章 アラミス ――カフェ・アレクサンドル
以前ほどの活気は失せたものの、銀座通りを行き交う人の数は、夜が更けるほどにその数を増す。
高級店のウィンドウはきらびやかに飾られ、客を送り迎えするために通りに顔を見せる女たちの華やかさは、ほかのどの街にもないものだった。
「カフェ・アレクサンドル」
表通りに小さなネオンしか掲げていないその店は、常連客でなければ見落としてしまいそうな地味な外観だったが、一歩中に入ると別世界のように華やかな光景が広がった。
ビリヤードに興じたり、ルーレットの台を囲んだりする男たち。ポーカーのテーブルでは、ショートヘアの女ディーラーがカードを配っている。バーテンダーたちは糊の利いたシャツ姿でカウンターに立ち、その後ろには、美術館の展示品のように色とりどりの酒のボトルが並べられていた。
その二人連れが店のドアを開けたのは、金曜日の夜八時だった。
「これは、これは。木庭様、お待ちしておりました」
オーナーとおぼしき男は、その姿を見かけるや、うやうやと歩み寄り、奥のテーブル――この店の特等席――に案内した。
二人連れの男。
一人は五十代半ばで、口髭をたくわえ、恰幅のいい体躯をしている。さりげなく羽織ったジャケットも、袖口から覗く腕時計も、一目で高価なものだとわかった。
もう一人の日に焼けた男は、まだ三十前だろう。身に着けているものは連れに一人に負けないくらいのブランド品で、精一杯粋がっているものの、青臭い風情のためか「洋服に着られている男」にしか見えない。
年長の男、トーホー開発専務の木庭茂が「いつものを頼む」と声をかけると、オーナーは深々と一礼してテーブルを離れた。あまり機嫌のよくない客の様子を察したようだ。
高級店のウィンドウはきらびやかに飾られ、客を送り迎えするために通りに顔を見せる女たちの華やかさは、ほかのどの街にもないものだった。
「カフェ・アレクサンドル」
表通りに小さなネオンしか掲げていないその店は、常連客でなければ見落としてしまいそうな地味な外観だったが、一歩中に入ると別世界のように華やかな光景が広がった。
ビリヤードに興じたり、ルーレットの台を囲んだりする男たち。ポーカーのテーブルでは、ショートヘアの女ディーラーがカードを配っている。バーテンダーたちは糊の利いたシャツ姿でカウンターに立ち、その後ろには、美術館の展示品のように色とりどりの酒のボトルが並べられていた。
その二人連れが店のドアを開けたのは、金曜日の夜八時だった。
「これは、これは。木庭様、お待ちしておりました」
オーナーとおぼしき男は、その姿を見かけるや、うやうやと歩み寄り、奥のテーブル――この店の特等席――に案内した。
二人連れの男。
一人は五十代半ばで、口髭をたくわえ、恰幅のいい体躯をしている。さりげなく羽織ったジャケットも、袖口から覗く腕時計も、一目で高価なものだとわかった。
もう一人の日に焼けた男は、まだ三十前だろう。身に着けているものは連れに一人に負けないくらいのブランド品で、精一杯粋がっているものの、青臭い風情のためか「洋服に着られている男」にしか見えない。
年長の男、トーホー開発専務の木庭茂が「いつものを頼む」と声をかけると、オーナーは深々と一礼してテーブルを離れた。あまり機嫌のよくない客の様子を察したようだ。