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独り暮らし女性連続失踪事件
第2章 罠
男たちの姿が見えなくなると、誠はフゥーと息を吐いたが、生きた心地がしなかった。そして、「もう大丈夫だよ。あいつら、行っちゃったよ」と絵美に言ったものの、腰が抜けて、へたり込んでしまった。絵美もよほど怖かったのか、誠の背にしがみついたまま、震えていた。
「先生、もう大丈夫だよ」と声を掛けると、気が緩んだのか、逆に「怖かった…」と声を上げて泣き出してしまった。
「大丈夫?」と声を掛けてくれる人もいるが、こんな姿をこれ以上は晒ししたくない。誠は絵美を店頭の隅にあるベンチに連れて行き、「大丈夫、あいつら、いないよ」ともう一度言うと、やっと「ありがとう」と言葉が返ってきた。しかし、目の周りは涙で真っ赤だ。
「先生、吉田ケンネルで揉めてたって、あいつらのこと?」
「知ってたの?」
「うん、ちょっと聞いただけだけど、どうしたの?」
「犬のことなんだけど」
落ち着きを取り戻した絵美はトラブルになったことをぽつりぽつりと話してくれた。
「でも、なんか変な話だね。どうして、タイミングよく隣の部屋に雌犬がいるんだ?おかしいよ、先生」
「そんなことより、この件は誠君に関係ないこと。気にしないで」
「だって、変な話だし、あんな怖い奴らと揉めているのに、気にしないでって言われても、僕は」
「大丈夫。警察に相談するから」
「分ったよ。だけど、今日は先生を家まで送って行くよ。まだあいつらがいると大変だから」
絵美の家は誠と同じ方向、ここから五百メートルも離れていない。
「送ってくれてありがとう」
「先生、いいんだよ。僕も同じ方向だから。なんかあると心配だから、買い物なんか出掛ける時も、一緒に行ってあげるから、ねえ、先生」
絵美は迷ったが、それくらいなら誠を巻き込むことは無いだろうと思い、「うん、分ったわ。今日はありがとう」と返事をすると「じゃあね」と言って家に入っていった。