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独り暮らし女性連続失踪事件
第5章 潜入取材
「おはようございます」
目が合った男に佐々木が挨拶すると、先程と同じように「おはよう」と直ぐに返ってきた。幸先良しと思った佐々木は「あの、先月からペットの世話などの仕事をしてます。先輩から勉強してこいと言われてきました」と頭を下げると、「おお、そうか。こっちに来いよ」と中に誘ってくれた。彼は佐々木の作業服姿を見て疑いも無く同業者と思い込んだようで、「『ドッグキャンプ』って言われたから、特別に運動機能を高めることでもするのかと思っていましたが、躾教育なんですね」と、ど素人丸出しのことを尋ねても、「そうだよ、それが大事なんだ。躾が出来ていない犬を家に連れて帰ってみろよ、大変だぜ。所構わずにウンコはするし、柱があれば直ぐにオシッコだ。犬の世話をするのに、こんなことも知らないのか?」と笑っていた。
「いや、すみません。転職したばかりで、何にも知らないんですよ」
「しょうがねえな。だから先輩が勉強してこいと寄越したのか?」
「まあ、そんなところです。血統だけじゃダメなんですか?」
「確かに血統は大事だけどな、躾も同じくらい大事なんだよ。人間と同じだよ。いいところのボンボンでもだらしない奴、いるだろう?」
「なるほど、そうですね。よく分かりました」
“出来の悪い生徒ほどかわいい”と言われるように、その場の雰囲気は和やかなものになった。そして、男は躾の他に、犬にも「子は親の背を見て育つ」的なところがあるなど、様々なことを教えてくれた。