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独り暮らし女性連続失踪事件
第5章 潜入取材
頬に疵があったり、拳には空手ダコがあったり、明らかに素人ではない。やばいと思ったが、両脇を固められあ、もう逃げ出す隙は無い。「助けてくれ」と叫ぶのは簡単だ。しかし、事件を解くカギが目の前にぶら下がっている。〝虎穴に入らずんば虎児を得ず〟と腹を括った佐々木が「はい、午後もいろいろ見学させて頂こうと考えております」と答えると、「感心だな。それじゃあ、じっくり勉強させてやるか」と、男はタバコを佐々木のラーメンの汁に投げ込み、「おい、佐々木さんをご案内しろ」と顎で周りの男たちに命令した。
何をされるか分らないが、本物の悪党なら殴っても、直ぐに殺しはしないだろう、そう開き直った佐々木は「私のような新人にご説明頂けるのですか?」と慇懃に尋ねると、小柄な男はニヤッと笑うだけで、「いいから、ついて来な」と、食堂を出ると、事務所がある管理棟には向かわず、佐々木は駐車場に停めてある黒いワンボックスカーに連れ込まれてしまった。
「特別な場所だからな」
車に乗せられると、後ろに座っていた男が黒い袋を被せてきたが、以前の取材でもやくざに殴られたことがあるので、ビビることはなかった。
「お前、やけに落ち着いているじゃねえか。本当は何者だ?」
先程のとは違う男の声に、「吉田ケンネル」と言い掛けた時、ドスンと拳が横っ腹にめり込んだ。
「ふざけてんじゃねえよ」と怒鳴り声が、そして、続けざまに2発、顎にパンチが飛んできた。
痛えな…やっぱり、やくざか…佐々木は蹲ったが、「テメエ、死にてえのか?」と、袋を掴んで頭を持ち上げられた。