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独り暮らし女性連続失踪事件
第6章 奪還
「大沢、そう堅くなるなよ」
車内は哲也と誠の他はドライバーだけ。言葉は穏やかだが、何か含みがあるようで、かえって不気味だ。哲也がニヤリと笑った。
「お前も今日から仲間だ。背中に彫り物を背負わせてあげるよ」
「えっ、そ、そんな…」
「心配するな、金は俺が払うから。おお、あの角で停めてくれ」
「了解です」
「て、哲也さん、ゆ、許して下さい。刺青なんて…それだけは、許して下さい」
誠はガタガタ震えている。どんなに頼んでも、哲也は取り合わない。そして、車は人気の無い裏通りで止まった。
「大沢、降りるぞ。彫り師を待たせているからな」
「お、お願いです。許して下さい」
「馬鹿野郎!仲間だって言っただろう。仲間なら彫り物背負わなくてどうすんだよ」
誠は哲也に蹴飛ばされ無理やり車から降ろされた。古いビル、灯りのついた三階の窓に「彫允」の文字が見える。あそこに行ったらお終いだ。
「それだけは許して下さい。お願いします!」
誠は道路に這いつくばった。だが、哲也は「腹をくくれ。諦めなよ」と靴の爪先で横腹を蹴飛ばす。そして、「うっ…」と蹲る誠の襟首を掴むと、「ほれ、立てよ。もう逃げられねえんだよ」と無理やり、その古いビルに連れ込もうとする。
刺青なんかされたら、まともな人生を歩めない…誠は勇気を振り絞って「やめてくれ!」と哲也に体当りした。
「てめえ、やりやがったな!」
不意をつかれた哲也が尻餅をついた。この時しかない。誠は駆け出した。
辞めたとは言え元陸上部。スピード、スタミナ共に逃げ切るには十分だった。