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独り暮らし女性連続失踪事件
第6章 奪還
「副署長、〝背中の痛み〟って何ですか?」
いわくありげな言葉に橋本刑事が事件のことよりも先に質問した。
「田村は大手新聞社の社会部でエースと言われた記者だった。事件を嗅ぎつける鋭い嗅覚、徹底した取材と何も恐れない勇気、悪党どころか、我々警察も、あいつに喰い付かれたら逃れられない、〝ハイエナ〟と呼ばれ、最も警戒された記者だった」
「そうですか。しかし」
「“なのに、どうして週刊誌の編集長なの”だろ?」
「いえ、まあ、そうですが」
「追いつめ過ぎたんだよ。あまりにも徹底して追いつめるから、ある組織に捕まって、背中に入れ墨を彫られてしまったんだ。その時の相手が吉野だ」
「それで〝背中の痛み〟ですか?」
「いや、違う。あいつはそんなことではくじけない。あいつは被害届すら出さなかった。それどころか、ますます悪党たちを追及していった。しかし、新聞拡張団って、新聞の購読家庭を増やすために各新聞社と契約している者たちだが、その中に悪党と繋がっている者がいて、会社の上層部に圧力をかけたんだよ。それで、田村は会社から追い出されてしまったんだ。あいつは、“俺は負けない”ということを“背中の痛みが教えてくれる”って言うんだよ」
「そうですか。性根が座っていますね」
「ああ、刑事にしたいくらいだよ」
副署長が一息つくようにお茶を飲み干した。
「おっ、メールが来たぞ」
副署長がパソコンをたたきはじめた。
「ファイルがついているな〝事件構造図〟か。事実と推測が色分けしてあるが、相当、核心をついているな」
「吉野とブリーダーたち、それから協力者と被害者…やはり鋭い分析ですね」
パソコンを覗き込んだ橋本刑事もしきりに感心していた。