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午睡の館 ~禁断の箱庭~
第2章 後編
「私……寝言とか言っていませんでしたか?」
言いにくそうにそう言った櫻子に、渡邉が破顔する。
「寝言……? ああ、言ってた言ってた。「今日の晩御飯は絶対肉ね!」って」
「そ、そんな事、言いません……!」
櫻子はムキになってそう言い募る。
「あはは。嘘だよ。静かに眠ってたよ。今、ご自宅に連絡したから三十分後にはこちらに迎えに来れるそうだ。それまで寝ておきなさい」
「はい……」
にこやかにそう言った渡邉に従った櫻子は、おとなしくベッドに横になった。
「おやすみ」
「おやすみなさい……」
恥ずかしくて鼻の下まで上掛けを被った櫻子は、そう言って瞳を閉じた。
それを確認し、渡邉は後ろ手に扉を閉めて保健室を出た。
その顔には、先ほどまでの人懐こい微笑みはなかった。
翌日の放課後。
渡邉は東儀家の豪奢な玄関に立っていた。
「申し訳ありません。急な事でしたので、主人が戻りますには一時間程掛かります。こちらにてお待ち頂けますでしょうか?」
使用人に促され応接間で待っていた渡邉に、メイドの服装をした女性が、ミルクのたっぷり入った紅茶を出してくれた。
口を付けると濃厚なウバ茶葉の味と、ほろ苦さが口の中に広がる。
紅茶の香りに少しだけ苛立っていた気持ちが落ち着き、ふうと息を吐き出した時、扉がノックされた。
「失礼します、先生」
顔を表せたのは櫻子だった。
今帰ったばかりなのだろう、その体は制服に包まれていた。
「先生、どうして……?」
家庭訪問の予定もなく突然現れた渡邉に、櫻子は驚きと少しの困惑を湛えた表情でそう聞く。
「……悪いな、急に押し掛けて」
「いえ、いいのですが……」
中央のテーブルに近づいた櫻子は、そのまま立ち尽くす。
「……東儀、お前……虐待されているだろう……」
「………っ!?」
いきなり確信に触れた渡邉に、櫻子はびくりと身体全体を震わし、切れ長の瞳をこれでもかというくらい大きく見開き、見つめ返す。
「……どう、して……」
「昨日、保健室にお前を運んだ時……見えたんだ、手首の痣……」
それは一昨日の夜、雅弥に手を拘束されて犯された時に出来た痣だった。
長袖を着ているのでばれないだろうと思っていたが、失念していた。
櫻子は手首を隠して、唇を噛む。