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午睡の館 ~禁断の箱庭~
第1章 前編

櫻子は特別な生徒だった。



前述の様な理由から体育の授業も免除、学園への送り迎えも本来禁止されているにも関わらず免除。

そしてその整いすぎた美貌からも、周りから一目置かれる存在だった。

ただそのせいか、入学式から一週間以上経った今でも、友達が出来ない。

「……生……」

「渡邉先生ってば……っ!!」

耳の横で大きな声で呼ばれて、渡邉は我に返った。

初めて担任を受け持ったクラスの生徒達が、皆、渡邉を見つめている。

「あ、ああ。悪い……なんだ?」

渡邉は少し猫毛の髪を掻きあげると、こちらを覗いている学級委員に尋ねる。

「もう! 先生ってば今、東儀さんに見惚れてませんでした?」

「え、違うよ。ぼおっとしていただけだ」

渡邉は図星を指されて内心焦る。

「本当ですか~?」

からかう様に皆が口ぐちに話し出す。

「本当だって。さて、行先はどこかな?」

「水族館で~す!」

はしゃぐ生徒達を横目に、渡邉はもう一度櫻子を見やる。

櫻子はまだぼうと、外の桜を見つめていた。





「東儀!」

HR後、次の移動教室へ移ろうとしている櫻子を、渡邉は廊下で呼び止める。

「……はい」

櫻子は控えめに、背の高い渡邉と視線を合わせてくる。

「東儀が……その、イギリスに留学をするのは知っている。しかし、それまで誰一人友達を作らないつもりか……?」

渡邉はついに入学当時から感じていた疑問を、櫻子にぶつける。

櫻子が通っていた、この学園の中等部の内申書にも書かれていた。

成績優秀、品行方正。身体が弱いことを除けば完璧な生徒。ただ、特定の友人を作ろうとしない。

「………」

「いや、その責めているわけではないんだ。東儀が引っ込み思案だというのは薄々気づいているし……」

「……すみません」

櫻子は特に表情も変えずに、そう口にする。

「東儀……ピクニック、どうしても駄目なのか? みんな何も言わないけれど、お前に行ってほしい、一緒に行きたいと思っていると思うぞ」

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