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午睡の館 ~禁断の箱庭~
第1章 前編
東儀家は明治の頃より銀行業、投資業を基軸に不動産等多角経営をし、噂では宮との繋がりもあると聞く。
今日の面談相手はそのトップである櫻子の祖父、東儀翁かと思い渡邉は思わず身震いしたが、通された客間に現れた人物は違った。
その人物を目の当たりにした時、渡邉は文字通り固まった。
その人物――櫻子の兄は、櫻子に瓜二つだった。
男性にしては色素の薄い肌。
濡れた様な漆黒の黒髪。
切れ長の大きな黒曜石の様な瞳。
しかし背は高く精悍で、渡邉と同じく百八十センチは優に超えていた。
「初めまして。櫻子の兄の、雅弥です」
雅弥はそう言って、優雅な仕草で右手を差し出す。
固まったままの渡邉は、ぽかんとその様子を見つめていたが、雅弥がふわりと微笑んだのを至近距離で目の当たりにし、胸がどくりと高鳴った。
(東儀が微笑んだのかと思った――)
まだ一度も目にしたことが無い櫻子の微笑みが、目の前にあるという錯覚を起こした渡邉の顔が、朱に染まる。
「渡邉先生……?」
そう男の声で呼びかけられ、ようやく渡邉は我に返った。
目の前の雅弥は面白そうに渡邉を見ている。
「す、すみません!! ぼうとしてしまいまして……っ!」
「いいのですよ。私があまりに櫻子と瓜二つだから、驚かれたのでしょう」
雅弥はそう気さくに返すと、強引に渡邉の右手を取って握手した。
「あ……いえ……そうですね。本当によく似ていらっしゃる……あ、すみません。まじまじ見てしまって」
恐縮する渡邉に、雅弥は名刺を差し出す。
そこには東儀ホールディングス 代表取締役と書かれていた。
「よく言われます。だから私達も気にしていません。どうぞお掛けください」
「失礼します」
すごすごと座った渡邉を、雅弥はしばし面白いものを観察するような目で見つめていたが、くすりと笑う。
「渡邉先生はお若いのですね、失礼でなければお年をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「はい、今年で二十六です。……若輩者ですが、やる気だけは誰にも負けませんので、ご安心ください」
渡邉は他の生徒の父兄から、若い教師だということで舐められたことを思い出し、慌ててそう付け加えた。
「では私と同級ですね。そうか、そうですか……」
雅弥はそう一人で何かを納得したように頷く。
「………?」