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午睡の館 ~禁断の箱庭~
第1章 前編
不思議そうな顔をして見せた渡邉に、雅弥が気付く。
「ああ、すみません。いえ、高等部に入ってから櫻子が体育に参加するようになったり、体育委員になったのでどうしたのかと思っていましたが……きっと先生に憧れての事だったのでしょう」
櫻子と似た顔の笑顔でそんな事をさらと言ってのける雅弥に、渡邉は面食らう。
「え……いえ、そんな……」
そんな渡邉の様子を見て、雅弥が少し困惑した表情になる。
「しかしね、渡邉先生……」
言いにくそうにそう切り出した雅弥を、渡邉は無言で促す。
「知っていらっしゃいましたか? あの子が体育の授業に参加した日の夜、いつも高熱を出して倒れていたことを……」
「え………」
意外な事実を知らされ、渡邉は言葉に詰まる。
「言いにくいのですが……櫻子は体が弱いのです。ですので入学の時にお願いした通り、体育は休ませてほしいのです」
「……そうだったんですか。そうとは知らず、私は東儀が積極的になってきたのだと、喜んでいました。気付かずに……本当に申し訳ありません」
渡邉はそう、深々と頭を下げた。
「いえ、いいんです。分かっていただければ。……ところで、学園での櫻子はどうですか? 楽しくやっていますか?」
雅弥はまた表情を微笑みに変え、話題を移す。
「はい、そのことで実はお聞きしたいことがありまして……」
「なんでしょう?」
「実は、東儀は中等部二年の頃から、ずっと友人を作っていない様なんです。ご存知でしたか?」
「………」
渡邉の質問に、雅弥は無言で頷く。
「御父上がそのころにお亡くなりになっているのが、もしかしたら関係あるのかもしれませんが……」
「そうかもしれませんし、そうではないかもしれません。父が亡くなってからの櫻子は塞いでおりました。そして、もうご存知だと思いますが……私どもの祖父が厳しい人で、それで余計にそうなってしまったのかもしれません」
雅弥は長い足を組み替えてそう言った時、扉がノックされる。
「どうぞ」
雅弥の返事に扉が遠慮がちに開かれる。
そこにはティーセットを乗せた大きな盆を抱えた櫻子が立っていた。
「櫻子が入れてくれるのかい?」
すっと立ち上がった雅弥が、櫻子に近づいて手からその盆を預かり、渡邉のいるローテーブルへと降ろす。