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8月のヒメゴト ~僕と桃香の7日間~
第5章 5日目
僕はももちゃんの過去を全く知らない。彼女が話したこともない。
別にそれで、ももちゃんを好きな気持ちが揺らぐ事はないが、気にならない訳ではない。
「わたしね…本当はずっと、寂しかったの」
「お父さんとお母さんは?」
「いてもいなくても、同じだよ」
それは育児放棄か?やっぱり、親から愛情を受けずに育ってきたのか。
「ずっと、お兄ちゃんに会いたかったの。わたしが好きなのは、お兄ちゃんだけ」
以前と同じ疑問が、頭をよぎった。いつ僕の事を知ったのか…
しかしそれは、触れてはいけない気がした。なぜだか自分でもわからない。
「ありがとう。僕も、ももちゃんだけだよ」

防波堤は、少しずつ近付いていた。
僕はふと、ビーチの方を振り返った。
砂浜を女性が歩いていた。全身黒ずくめ、黒い帽子…旅館にいた、あの人か?
まさか…僕達を追ってきた?
いや、偶然だろう。ここは旅館からそれほど遠くない。たまたま同じ海水浴場に来てるだけだ。
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