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会社のドSな後輩王子に懐かれてます。
第9章 白馬黒哉について
ギロリと鋭い眼光で睨まれる。
自分の思い通りにならない人間が大嫌いな親父は、
口答えをすると毎回この顔で制してくる。
「も、申し訳ありません……。」
当時の俺はまだ子供だったから。
多忙な父親と関われる練習時間が特別で、
結構好きでもあった。
この人が俺を見てくれる、唯一の時間だったから。
「お前には専用の練習相手を用意した。……いいぞ、入れ。」
その言葉を合図に入ってきたのは、三十代の男性。
「龍道だ。舎弟の中でも腕がいい。お前と十分に張り合えるだろう。」
「よろしくお願い致します、黒哉様。」
……これが、俺と龍さんの初対面。
「ええ、こちらこそ。よろしくお願いします、龍道さん。」
ここからめっきりと、親父と関わることはなくなった。
────ズドン!
「…流石ですな、黒哉様。相変わらずお強い。」
柔道の練習。
龍さんと対戦するようになって、二年の月日が経った。
小学生のガキが大の大人に勝てるのかって?
そりゃ俺だもん。勝てるよ。
「龍さんもっとキレ良くしなきゃ。結構無駄なところ多いよ。」
「黒哉は手厳しいわね。」
母さんがよく見学に来ていた。
正直、親父と練習していたときより俺の心は安定していた。
なぜなら、龍さんの前でも素をみせることが出来たからだ。
母さんに加えてもう一人、
自分の心を許せる存在が出来たのは本当に大きくて。
この二人のお陰で自分を保てていたと言っても
過言じゃないくらい。
繕っていない、本当の笑顔を見せられていた。
……でも、こんな平穏な日々は長く続かず。
変化は突然訪れた。
俺が十三歳の頃かな。
母さんが病死した。
涙は不思議と出ない。
たぶん、親父がすぐそばにいたから、
泣いちゃダメだと勝手に自制心が働いたのだろう。
心の拠り所が、一つ減った。
親父は母さん大好きな人だったから、
かなり心にきてたんじゃねぇのかな。
「黒哉は母さんによく似ているな…。美しい顔だ。」
……俺に母さんの面影を重ねるようになった。
最初は嬉しかったよ。
経緯がどうであれ、
俺のことを見てくれることが増えたから。
……でも違った。逆だ。
親父は余計に俺自身のことを見なくなっていた。