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会社のドSな後輩王子に懐かれてます。
第9章 白馬黒哉について


親父が見ているのは母さんの面影で、
そこに俺はどこにもいない。

それが嫌で、
いつしか俺は息を潜めて生活するようになった。

存在を感じさせないよう、
部屋は常に未使用のような状態に。

ベッドも、シンクも。
使い終わったら綺麗に元に戻す。


いつしかそれが、癖になった。



「……黒哉様、お加減はいかがですか?」
「どうして?元気だよ、龍さん。」


こんなふうに、龍さんが時折心配してくれた。

別に無理をしていた感じはなかったけど、
実際はかなりの負担がかかっていたのだろう。

母親の死、仮面を被った自分しか認めてくれない父親、
居心地の悪い家、厳しい練習。


まぁ確かに、
この条件を見れば目が死んでいてもおかしくない。

それでも龍さんがいてくれたから、
まだ自分は保てていた。







……でもさ、現実って残酷だよね。








俺が高校にあがる直前、
龍さんが御堂形を出て行くことになった。








────「へぇ、龍さん教室開くんだ。」


練習終わりに突然告げられた。

親父が「そろそろ独立したらどうか」と勧めてきたらしい。
龍さんが自ら決めたことだ。
口出しはしないと思ってたんだけど。


「……まだ一度も俺に勝ててないのにね。」


勝手に皮肉が口からこぼれた。

だっせぇ俺。
んなこと言っても龍さんを困らせるだけなのに。


龍さんがそんな俺の手を握って、力強い眼差しで言った。


「……黒哉様。どうか自分を見失わないで、強く持ち続けていてください。あなたはそのままで十分に素敵な方だ。
仮面が取れなくなったら最後、そこであなたは終わってしまいます。」


……やけにその言葉が強く心に残って。

ガキな俺を認めてくれる。
むしろ、そのままでいろと言ってくれる人がいるのかと。


「……うん、わかった。」


俺は龍さんの言葉に、強く頷いた。

投げやりになって、
御堂形に自身がのまれてしまうのは、
きっと一番いけないこと。

そう思った俺は、
龍さんがいなくなったあとも、常に自分を持ち続けた。


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