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会社のドSな後輩王子に懐かれてます。
第10章 甘い微熱と寂しさと
────山下サイド────
────これは夢だ。
「全部お前が悪いんだよ!」
「ごめんなさい……っ」
目の前に、平田くんがいる。
なんだか懐かしいな。
もう忘れかけていたこの感覚。
どうしようもない恐怖と寂しさと。
なぜか今、私は裸で座り込んでいる。
身体には生々しいアザが沢山だ。
そして、気が狂ったような形相で私を見下ろす平田くん。
毎回暴力を振るわれた日は、
家に帰って、すがるようにぬいぐるみを抱きしめてた。
癖というか、日課。
人に頼ることが怖くて出来なかったから。
「なぁユイ、聞いてんのかよ?」
冷めた声音。
突然景色が変わる。
……ここ知ってる。
私が別れを告げた日の、あの路地裏だ。
平田くんの手には果物ナイフ。
冷たい小雨が降り注いでいる。
あぁ、夢って分かっててもやっぱり怖いな。
心臓が張り裂けそうなほど煩くて、
冷や汗が止まらない。
あのときは白馬くんが助けに来てくれたけど、
今回はそんな気配もないし。
平田くんがゆっくりと私に近づいて、
ナイフを上に振り上げる。
「身体に覚え込ませてやらなきゃ駄目みてぇだなぁ?」
鋭く光るナイフの切っ先。
夢だから痛くないかな、とか。
早く覚めてよ、とか。
冷静に出来事を俯瞰する一方で、
あのときと同じ恐怖がわたしの心を支配する。
怖い。誰か。
────白馬くん。
……来ないことはわかっているのに、
どうしても名前を呼んでしまう。
ぼぅっと見つめる切っ先が、
勢いよく私に振り下ろされる。
大丈夫、これは夢だから。
自分にそう言い聞かせながら、
諦めて目を瞑った、
そのとき。
「……?」
何も触れていないはずの私の手を、
どこか馴染みのある体温が包んだ。
少し低めの、心地良い体温。
その熱に意識を引っ張られ、
恐る恐る閉じていた目を開けると、
そこには。
「先輩、大丈夫?」
────私の手を握って心配そうに私を見つめる、
白馬くんがいた。
平田くんはいない。
明かりの消された、薄暗い私の部屋。
あぁ、戻ってきた。