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会社のドSな後輩王子に懐かれてます。
第12章 兎と蛇
────蛇塚サイド────
「わたくし、どうしてここに……。」
目の前には古ぼけた小さな神社。
無我夢中で走っていたら、
いつの間にかここに辿り着いておりました。
兎が言っていた、危ない場所。
昼間でも十分に薄気味悪さがありましたけれど、
夜になると別格ね。
見ているだけでなぜか寒気が止まらない。
「ここはダメ、皆さんに心配される前に早く帰らないと……」
そう言って踵を返した、そのとき。
「っ?!」
目の前に、原型を留めていない男性のお顔があった。
視えたのはほんの一瞬。
瞬きの合間に、その男性は姿を消していた。
怖すぎて声も出ない。
兎はいつもあんなのを視ているの……?
震える手を抑えながら、
早く立ち去ろうと足を動かそうとするのですけれど。
「っどうして……?足が動かない……っ。」
恐怖に震えて動かせないわけではなく。
何者かに足首を掴まれて、
地面に固定されているような感覚。
霊感のないわたくしにもハッキリとわかりましたわ。
今、後ろにいる大勢の霊がわたくしを見ている。
頭が重い。背中も重い。
心なしか意識も遠のいていく。
誰も人は居ないはずなのに、
耳からは楽しげな笑い声が聞こえてきて。
黒い影を纏ったお爺さんが、
ゆっくりとわたくしの前に姿を現した。
ニヤリと怪しげに笑った口から、金歯が光る。
あぁ、これは確実にまずいわ。
そう頭では分かっておりますのに、
身体は少しも動いてくれない。
お爺さんはわたくしと距離を詰め、
わたくしの頬に手を当てようとしてくる。
「綺麗で可愛いお嬢さん、今から我らの仲間に────」
もう、ダメね。
わたくしが諦めて、そう悟ったその瞬間。
「蛇!!」
────遠くから、大好きな彼の声が聞こえた。
意識が途切れかけたわたくしの耳に、
パン!と手を叩いたような大きな音が鳴り響く。
その音にハッとして意識を取り戻すと、
目の前にはホッとした表情でわたくしを見つめる兎がいた。