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会社のドSな後輩王子に懐かれてます。
第12章 兎と蛇
「兎、どうして……」
「よかった、間に合った……。」
そう言って、兎がわたくしを抱き締める。
後ろから頭を抑えられ、彼の肩に頭を預けている状態。
こんな状況なのにドキドキする。
すると、不意に兎が
わたくしの身体に回す手に力を込めた。
そして、地から這い出たような、おぞましい声で告げる。
「おいてめぇら、消えてぇやつから前でろや。」
わたくしも思わず肩を震わせてしまうほどの、
恐ろしい声音。
彼の表情は見えませんけれど、
とてつもなく怒っていることだけはハッキリと分かる。
彼の手は優しくて温かいのに、雰囲気が痛いほどに冷たい。
すると、これまで一身に受けていた嫌な視線が
一斉に止んだ。
寒気もしない。身体も動く。
きっと、幽霊がいなくなったのね。
わたくしが兎の背中に手を回すと、
彼は優しくわたくしの頭を撫でてくれた。
……こんなふうにされると期待してしまうわ。
「蛇、大丈夫か?」
「ごめんなさい、近付いちゃだめだったのに……。」
兎にポツリと謝る。
彼に言われていたのに、どうして来ちゃったのかしら。
あんなに危ないところだったなんて。
すると、彼は一つ息を吐いてぶっきらぼうに答えた。
「来ちまったもんはしょうがねぇだろ。別に責めてねぇし気にすんな。んなことより、さっさと帰んぞ。」
兎がわたくしから腕を離す。
そうね、早くみんなのところへ帰らなきゃ。
そう思って、わたくしが足を前に出そうとしたとき。
「……え?」
急に身体がふわりと宙に浮いた。
突然のことに理解が追いつかない。
目の前には兎の顔。
背中と膝裏に腕を回して、抱きかかえられてるような感覚。
……わたくし、お姫様抱っこされてる?
「えっ、あ、あの、兎?」
「あ?お前足首掴まれてたし、足に力入んねぇだろ。大人しくしてろよ。」
平然とした顔で言いながら、兎が歩き出す。
あまりの状況に顔が熱くなるも、
抵抗する気などさらさら起きなくて。
兎に言われた通りに大人しくしていると、
彼が前を向いたまま静かに言った。
「……帰ったら二人きりで話しさせてくれ。教室で言ったあの言葉について、少し話しておきてぇことがあっから。」
いつになく真剣な兎の表情。
わたくしは彼を見つめながら、小さく顔を頷かせた。