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会社のドSな後輩王子に懐かれてます。
第3章 本物のヒーロー
濡れた髪が風に吹かれ、隠れていた首元が露わになる。
すると、ここに来てから無表情を貫いていた彼の目が大きく見開かれた。
「…あぁなんだ、そういうことかよ。」
平田くんは何かを悟ったような顔で、
ポツリと言葉を零した。
どういうことなんだろう。
意味がわからず一人呆然としていると、彼は首のある一点を指差し、ゆっくりと口を開いた。
「────お前、男ができたのか。」
「…え?」
彼が示した首の一点。
そこを冷えた指先でなぞれば、ある出来事が脳裏をよぎる。
────夢で、白馬くんに噛まれた場所…?
寝ぼけた頭だったけど鮮明に覚えてる。
そこは、夢の冒頭で鋭い痛みが走った場所だ。
ひたすら血の気がサーッと引いていく感覚。
「ま、待って!私に男なんて出来てない!これは違うの!」
だってそれは夢の中の出来事であって、実際に起きたわけじゃないでしょ…?!
混乱した頭で必死に弁明したところで、彼に届くはずもない。平田くんは大きなため息をつきながら、パーカーのポケットに手を突っ込んだ。
手探りでそこから取り出されたもの。
それは、鋭利な果物ナイフだった。
「…何する気?」
脳内にけたたましく警鐘が鳴り響く。
これまでと危険度が桁違いだ。
ナイフから目を離してはいけない気がして、
ナイフを見張ったままそのままゆっくりと後ずさる。
それでも、そのぶん彼も歩みを進めるから意味がない。
そして、これまで見たことの無いような狂気に歪んだ笑みで、彼は答えた。
「そんなの決まってんじゃん。ユイは俺のだって、深い愛で証明するんだよ。」
深い愛。
ナイフの先端がギラリと光る。
全身が「逃げろ」と悲鳴を上げたときには、もう遅かった。
片手で大きく振り上げられた果物ナイフ。
首を掴まれ、のしかかられる形でそのまま地面に倒れ込む。
すべての光景がスローモーションだった。
足は動かない。お守りを握る手にも力が入らない。
振りかかるナイフを眺め、
もうダメだと悟った、その時────。
────ドッガラガラガシャァァン!!!
何者かに飛び蹴りを喰らった平田くんが、
後方の鉄パイプとゴミ袋の山に勢いよく突っ込んだ。