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堕ちる人妻
第1章 堕ちる人妻
 彼は、私の私生活ばかりを訊ねてきました。

 家事は大変だとか、子供の面倒を見るのは一筋縄にいかないとか、二十歳になって間もない青年がいっちょまえな事を言うのです。 


 だけど、そういう話は建前。本当は世間話の間に時折挟み込んでくるエッチな会話がメインの話題でした。


「毎日が忙しいと、夜のほうもすぐ終わっちゃったりするっしょ?」


「オナニーとかで済ませちゃうんすか?」


「俺、もう年上の人を見るだけで毎日がたのしーんっすよ!」


 白昼堂々。それなりに人が行き交う歩道で、よくも話せるなと呆れます。だけど、これはこの人なりの探りなのでしょう。嫌な顔をせず、少し控え目に答えると……ほら、嬉しそうな顔をして更に深い事を訊いてくるのです。


 私はクスクスと笑いました。案の定というか、この人はホントにセックスのことしか考えていないようです。


 それから先はトントン拍子で話が進んできました。私が少し誘ったせいもあるでしょう。元々そのつもりだったので、別に口説き文句はなんでもよかったんです。今の私は女。妻でも母でもない女なのです。


「二人だけの秘密が欲しい」 


 彼の口からその言葉を聞いたとき、私は笑みを浮かべました。


 九割は嘲笑。


 来る前に彼が考えてきたのでしょうけど、『秘密』とか言うようなドラマチックなことじゃありません。


 ……だけどその歯の浮くような台詞を聞いて、残りの一割がトキメキから生まれた喜びでした。これは『二人だけの――』というフレーズに惹かれたのです。


 私と彼だけ。この十年、アナタが傍に居ながらも、独りを感じていた私には十分すぎるキャッチコピー。


「……いいわ」


 私は頬を赤らめて返事をしました。きっと処女を捧げる少女のような顔をしていたことでしょう。 
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