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堕ちる人妻
第1章 堕ちる人妻
 決して媚びない眼で視線を流しつつ、そっぽを向いてうなじを見せると、獣の唇が首筋に吸い付いてきました。唾液まみれた舌でうなじのラインを舐め回しながら、ブラウスの下に手を入れてきます。


 獣の手はブラジャーのカップの下に滑り込んできました。そしてゴムボールを握りつぶすかの如く、胸をきつく鷲掴みにするのです。


「痛いっ」


 私は思わず声を洩らしてしまいましたが、正確に言うと、痛みよりも胸の圧迫による息苦しさに顔を歪めました。


「痛いだって? 誤魔化すなよ」


 そう言って獣は胸を掴んだまま親指で乳首を弄り、舌で顔を舐め回してきます。申し訳程度に化粧をしているのですが、化学薬品などお構いなし。まるで飴玉を頬張るかのようにむしゃぶりついてくるのでした。


 この獣、女を乱暴に扱う性癖を持っているようです。面倒臭そうにやっていたアナタの前戯とは真逆で、とても攻撃的です。相手の苦痛に悦びを感じる典型的なS……というわけでもなく、一度爆発したら最後、貪り尽くすまで欲望のままに突き進むタイプ。興奮し、絶頂に向けてポテンシャルが高まっていくのであれば、相手に怪我だって負わせてしまう危険な人間です。


 私は乱暴に扱われるのが嫌いでした。上から命令されるのも大嫌い。セックスは本来、お互いの愛を体で確認し合うためのものですから。


 だけど、揉みしだかれる胸が苦しくて我慢ならないはずなのに、親指で弄られる乳首が敏感に反応します。臭い息を纏って舐め回してくる舌の感触に、鳥肌が立ちました。心臓から送り出される血液が活発に巡り、私の感度を引き上げていきます。


 体が熱い。胸が高鳴って、下半身に蒸れました。股を閉じるのが気持ち悪いくらいに、局所が滾ってきました。


 彼に耳たぶを噛まれ、電気のようにチクリとした快感が首筋を駆けます。それが丁度太股に手を回されたのと相まって、私はかみ締めるような呻き声を上げました。


「おほっ! お前もうビチョビチョやんけ!」


 再び私の股間をまさぐってから、獣が嬉しそうに言いました。


 愛液だなんて言いません。これはただの汁。快感を抑えきれなくて溢れ出てきた卑しい汁で、獣一匹を虜にすることしかできない安っぽい蜂蜜でしかありません。
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