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第5章 　漏洩

　岡野詩音は杉崎の言葉にじっと下を向いて唇を噛み締めた。

　じつは今回の若手官僚の中で杉崎正孝はただ一人の既婚者。
　その杉崎と不倫関係にある岡野は、妻の嫉妬に悩む杉崎の姿をいつも見ていたのだ。

　「杉崎さんらしい表現ですわ。まさに、嫉妬が問題です。今どき、一夫多妻など提案したら嫉妬に狂った女性による反乱が起きます」
　
　岡野の刺すような視線に杉崎がうろたえる。
　多数の愛人の間で好色を貪る肉食系官僚たちにとっても他人事ではない。
　
　ふたたび岡野詩音の透き通る声が会議場に響き渡った。

　「今求められているのは、下半身離婚の制度化。すなわち、多妻一夫制であります」
　「多妻一夫制・・・？　一夫多妻とどこが違うのだ」

　「多数の女性による一人の男のシェア。すなわち男の共有」
　　
　岡野詩音の発言に会議室は一瞬水を打ったように静まり返った。

　その時であった。　

　「大変です。『影絵』が漏洩しました」