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海猫たちの小夜曲
第4章 冷たい海 ~海色のグラスと小麦色の少女③~
「さて、それでは以上で交渉を終了させていただきます。何かご不明な点があれば、小職にお電話ください。それから、望海さんはただいまより、こちらで保護いたします。以後、望海さんへの連絡は、小職を通していただきますので。望海さんの転居先が決まり次第、望海さんの荷物は引き取りに参ります。」

「ちょ、ちょっと待ってください、いくらなんでもいきなり連れて行くことはないでしょ。せめて月曜日までの間くらいは……ねえ。わたしたちもこれまでのことを望海に詫びようと思ってますし。」
 叔母が妙に優しい声で言ってきて、あたしは怖気がしそうだった。

 もう、転居先が決まるまでは一人で暮らしている遥の家に泊めてもらう段取りになっていて、遥のお父さんにも電話で了解を得ているのだ。今さら叔母の話を受けたりすれば、今、合意したことを反故にするよう叔父と一緒になって迫ってくるに違いなかった。

 だけど、叔母の意図は、あっさりと弁護士さんが挫いてくれた。
「そんな申し出を、弁護士として認められるとお思いですか? そもそも性的虐待の疑いがあるところへ望海さんを一時的とはいえ、お返しなどできるわけがありません。そんなことより、弁済が滞らないよう、月曜日までに今後の計画をきちんと立てられた方がよいのではありませんか?」

 弁護士さんの言葉に、叔母は悔しそうに顔を歪めると、お詫びもお別れもさせてくれないなんて、などと見苦しくわめきたてたが、もう全てが何をいまさら、という感じだった。

 1年あまりの叔父夫婦との暮らしのなかで、あたしが最後に見たものは、人は自分を守るためならどこまでも醜くなれる、ということの生きた見本だった。




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