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海猫たちの小夜曲
第5章 時間よ、止まれ ~海色のグラスと小麦色の少女④~
翌々日の月曜日、あたしは先生の車に乗せてもらって、隣町の公証役場で書類を作った後、東京に帰る弁護士さんを空港まで見送っていた。
公証役場での書類づくりは、弁護士さんの指示で滞りなく行われて、合意内容の読み上げの時も、叔父夫婦は終始うなだれたままだった。
空港からの帰りの車の中で、あたしは、自分を縛り付けて苦しめていた叔父家族という鎖があっさりと解けたことに、少しばかり脱力していた。
「想定通り事を運べたが、君にとっては、少し不本意だったかもしれないな。」
運転席の先生が、あたしに声をかけてきた。
「児童相談所なり警察なりに連絡して、叔父さんや従兄のしたことに責任を取らせる方向でもよかったかもしれないが、それをやると、叔父さんは役場を懲戒免職になるだろう。そうなったら、退職金も入らなくなるから、叔母さんが使い込んだお金を弁済させることができない。叔父さんを懲戒免職に追い込んだうえで、自宅や蓄えの一切を弁済金に充てさせるというのも、できなくはないだろうけど、そこまで追い込むと君に何をしでかすかわからないからな。まずまず、このあたりが落としどころじゃないかな。」
「そんな、不本意なんてとんでもないです。本当にありがとうございました。」
あたしは先生に改めてお礼を言ったが、あたしはまだ夢見心地だった。
先生は、まるで魔法のように、あたしの苦しみを何もかも片づけてくれたのだから。