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海猫たちの小夜曲
第5章 時間よ、止まれ ~海色のグラスと小麦色の少女④~
「分かんないよ……あたしには。何で好きな人を他人に抱かせよう、なんて思うのか。」
 それが、今のあたしの偽らざる感想だった。
「そうかな? わたしは少しだけ、わかるような気がするよ。」
 遥はあたしと違って、本やら映画やらを山ほど見ていて頭もいい。
 わかるなら少しだけでも教えてほしいところだった。

「望海はさ、スワッピングって知ってる?」
「……うん、倦怠期の夫婦とかが、別の夫婦とパートナーを交換する……ってやつだよね。」
「あれって、普通に考えたら、公認の浮気でしょ? でも、別にお互いに愛情があるから、プレイとして成立するわけだよね?」
「……それはそうかも。」
 あたしは、スワッピングというものを知識としては知っていたけれど、何で成立するか、なんて考えたこともない。

「スワッピングが何で成立するかっていうと、嫉妬するからだと思うの。俺の妻があんなことを……って、嫉妬することで愛情を確認するんだよ。寝取られ、って、それに近くないかな?」
 スワッピングという状況は、いまひとつ想像しにくいけれど、遥の説明は筋が通っているような気がした。
「好きな人を他人に抱かせたいっていうのは、愛情がないからじゃなくて、嫉妬したいからなんじゃないかな。もちろん、そのこと自体、ものすごく歪んでる、とは思うけど。」
 なるほど、と思い、あたしは大きく頷いた。

 それなら、あたしが誰かに抱かれれば、先生は嫉妬してくれるのだろうか。
 あたしが見知らぬ男にかしづいてペニスを愛撫し、男の欲望のままに弄ばれる姿を見て、先生は、嫉妬の炎で心を焦がしてくれるだろうか。

 そこまで考えると、あたしはふと、遥のことに思い当たった。

 もしかしたら、遥は、わたしと同じように考えることで先生の「寝取られ」を受け入れたのだろうか。
 そして、先生もまた、遥の気持ちを受け止めたのだろうか。

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